弁護士 仁藤 仁士

 

皆様、こんにちは。

 

1 イントロ

   昨今の日本では、義務教育だけでなく、高校、大学、大学院といったより高等な教育機関に進学する人達の割合が年々高まっています。

   弁護士になるにしても、今は法科大学院を卒業しなければ原則として司法試験の受験資格は得られないことになっています。来年度からは予備試験といって、法科大学院修了に代えて受験資格を得ることができる制度も発足しますが、それでも大学は卒業する必要があります。

   余談はさておき、法科大学院のように目的が明確な教育機関は、求められるサービスの内容も自然と特定されてきますが、一般の学校はどのようなサービスが求められるのでしょうか。判例、裁判例をご紹介しながら見てまいりたいと思います。

 

2 中学校及び高等学校の例

 一つ目は、私立中高一貫校の事例です。この学校は、情操教育を教育理念として掲げ、ホームルーム時間に「論語」を用いた道徳教育を行っていました。

   しかし、この教育内容を立ち上げた校長先生が不祥事で解任させられることになり、急遽後任の校長先生はこの「論語教育」を止めてしまいました。ノート作らせたり、作文を書かせたりすることが好評だったのか、保護者が反発し、損害賠償請求訴訟に至りました。

   保護者は、親にも学校選択の自由があると主張して、従前の教育方法を信じて学校を選んだのに、学校の都合で勝手に廃止されてしまったことに対して損害賠償を求めました。

   しかし、最高裁判所は保護者の請求を認めませんでした(最高裁第一小法廷平成21年12月10日判決)。入学後に教育内容を変更することを知りながらそれを隠して今までどおりの教育を行うと宣伝した、といった場合でないと親の学校選択の自由は侵害されたことにはならないとしています。さらに、学校への期待や信頼が損なわれたという点については、道徳教育が他の教科と比べて格別の重要性を持っているとはいえず、学習指導要領に沿った道徳の授業はなされていて、論語教育の廃止によって学校の教育水準が大きく低下したということもないので、違法ということはできないとしています。

 

3 予備校の例

   大学医学部を目指して医学受験専門の予備校に通ったところ、学力が一向向上しなかった、さらに、英語の講師が、授業時間中に中抜けや長い雑談を行うなどの怠慢が見られたので、授業料相当額及び慰謝料などの損害賠償請求をしたという事案です。

   英語の講師の点については、怠惰な授業を行っていた期間の授業料相当額とその分の慰謝料が認められました(仙台地裁平成20年9月24日判決)。しかし、予備校が契約の履行に関して大学医学部に合格できる程度の授業をしなかったという主張については、教材の内容や合格実績に問題がなかったこと、受講者からの特段の苦情がなかったことから退けられています。

 

4  以上の例を見てみますと、3の予備校の方はわかりやすいと思います。カリキュラムを組み、しかるべき教材を用いてきちんと授業を行っているならば、受講契約に基づくサービスは十分になされている裁判所は考えているようです。当たり前ですが受験に合格することまで保証する必要はないわけです。

2の道徳教育の判例は、教育内容の変更により期待や信頼が損なわれた点について、変更の必要性や合理性を判断要素として挙げておりまずが、前記のとおり学習指導横領に沿った教育が、まず学校に求められているサービスではないかと思われます。主な教育内容と付随的な教育内容の位置づけ、教育内容の変更の経緯(変更が必要となった事情や変更することがやむを得ないといえる事情)を整理しておくことが大切だとうかがえます。これは従前の記事で申し上げたように、書面等の客観的な資料を残して過程がわかるようにしておくことが重要です。


 今回もお付き合いいただきありがとうございました。