第1 はじめに
前回まで、労使共に関心の高い「賃金」に関するお話をしました。
たしかに、給料をいくらもらうか労働者の日々の生活に直結し、いくら支払うかは会社の経営を左右しかねません。ただ、お金さえ払えば従業員は満足するのかというと、そうでないことは言わずもがなです。
世の中の大部分を占めるサラリーマンにとって、1日のうち、睡眠時間等必要不可欠な時間を除いて殆どの時間を労働につぎ込むことになるため、労働時間も、賃金に負けず劣らず、重要な事項であることは疑いがないでしょう。このため、労働時間に関して労使間で紛争が起きることも多いわけです。
したがって、会社としても、労働時間について、最低限の知識を押さえておくことが、健全な経営を行う上で重要となります。そこで、今回は「労働時間」について述べていこうと思います。
第2 労働時間の意義
「労働時間」の意義については、明文上の規定がありません。
しかし、先に述べたように労働に従事する時間がどうであるかは、労働者にとって関心の高い事柄です。したがって、その重要性に鑑み、労働基準法89条は、使用者が就業規則を作成する場合には、必ず「始業及び終業の時刻、休憩時間、休日、休暇並びに労働者を二組以上に分けて交替に就業させる場合においては就業時転換に関する事項」(同条1号)を記載しなければならないとしています。
また、使用者は、労働契約締結に際し、上記事項を当該労働者に対して明示しなければなりません(労働基準法15条1項、労働基準法施行規則5条1項2号)。
ここで、始業時刻から終業時刻までの時間を拘束時間といい、拘束時間から所定の休憩時間を差引いた時間を所定労働時間といいます。
そして、労働基準法32条は、1週間の所定労働時間が40時間を超えてはならず(同条1項)、1日の所定労働時間が8時間を超えてはならないとしています(同条2項)。1項と2項は、共に充足していなければなりません。同条により定められた1週及び1日の最長労働時間を法定労働時間といいます。
なお、1週間の法定労働時間については、物品販売・理容業、映画・演劇業、保健衛生業、接客・娯楽業で常時10人未満の労働者を使用する場合に限り、44時間まで労働させることができるとされています(労働基準法40条、労働基準法施行規則25条の2第1項)。
第3 法定労働時間の確保
1 労働基準法の最低基準効
労働基準法は、労働条件の最低基準を定めたものですから、労働契約により、この基準を下回る労働条件を定めても、その部分について無効となり(強行的効力)、無効となった部分は労働基準法の定める基準によること(直律的効力)になります(労働基準法13条)。
したがって、使用者と労働者間で、所定労働時間が法定労働時間を超える契約をしたとしても、原則として労働基準法の強行的直律的効力によって、法定労働時間までに短縮されることになります。
2 罰則
法定労働時間規定(32条)に違反した場合、賃金原則(24条)に違反した場合より重く、6か月以下の懲役又は30万円以下の罰金が科されます(労働基準法119条柱書1号)。
3 割増賃金・付加金
使用者が、労働者に対し、違法に法定労働時間を超えて労働させた場合や、仮に後述する適法に法定労働時間を超えて労働させた場合であっても、その超過労働につき法定の割増賃金を支払わなければなりません(労働基準法37条1項)。
そして、使用者がかかる割増賃金を支払わない場合、労働者の請求により、裁判所は、未払金に加えて、これと同額の付加金の支払いを命ずることができます(同法114条)。