弁護士の森山です。
 今回は、事業承継における種類株式の活用法について考えようと思います。
 従前から、事業承継において種類株式をどのように活用するかについては、いろいろな議論がなされており、すでに御存知の方も多いとは思いますが、しばらくお付き合い頂ければ幸いです。

 まず、事業承継で種類株式の活用が必要とされる理由は、これが、議決権の集中にとって有効だからです。
 御存知のとおり、会社の重要事項は、株主総会の多数決で決定することになっているので、議決権の集中は、中小企業の今後の円滑な運営にとって避けてはとおれない問題です。

そこで、中小企業の社長が株式の大部分を保有している場合、相続の際の遺言で何とかしようとの考えが出てくるのですが、遺言を残したところで遺留分を主張されると、経営が不安定になるリスクは残ります。

このようなことから、種類株式を事業承継で活用し、そのリスクを何とかしようという話が出てきます。

様々な種類株式の活用が検討されていますが、今回は、完全無議決権株式の活用について書きます。

(1)完全無議決権株式について

 事業承継で、完全無議決権株式を活用するには、まず、普通株式と完全無議決権株式を発行し、遺言で、後継者には普通株式を、それ以外の者には無議決権株式を相続させるという方法があります。
 後継者以外の者にそれ相応の価値の無議決権株式を相続させれば(上場していない株式であれば、議決権の有無で株式の評価はほとんど変わりません)、後継者は遺留分を主張される心配はなくなりますし、議決権も保有できますので事業承継の目的は達成されることになります。

 但し、この方法をとると、議決権のない株式を相続した相続人が、経営に関与できないとの不満を述べる可能性があり(後継者でない者のこのような不満は概して本音ではなく、本音は経済面にあることも多いと思われます)、それを解消する必要があります。
 そこで、その無議決権株式を取得請求権付株式にする、配当が期待できる場合配当優先株にする等の対策が考えられます。
 ここで、取得請求権付株式とは、株主から会社に対して株式の取得を請求できる権利をいいます。

 無議決権株式にこのような経済的メリットを与えられれば、前述の 経営に関与できないとの不満は、一応解消でき、事業承継対策として有効な手段となります。