最近、不景気により従業員の賃金が支払われていないなどという話を良く耳にします。そこで、今回は、未払賃金立替制度について説明したいと思います。
未払賃金立替制度とは、賃金の支払の確保等に関する法律に基づき、企業が倒産したために賃金が支払われないまま退職を余儀なくされた労働者に対して、その未払賃金の一定の範囲について、独立行政法人労働者健康福祉機構が事業主に代わって支払う制度です。未払いであるからといって、無制限に支払われるのではなく、企業が倒産した場合に限り、支払われるものであります。
この未払賃金立替制度が利用できるのは、次のような場合です。
まず、使用者が1年以上事業を継続していたが、倒産したことが必要です。1年未満の期間しか事業を行っていない会社では利用できません。また、「倒産したこと」には、大きく分けて2つの場合があります。法律上の倒産の場合と事実上の倒産の場合です。法律上の倒産とは、破産、会社更生、民事再生、特別清算などです。このような場合は、破産管財人に倒産の事実等を証明してもらう必要があります。通常、破産管財人であれば、この手続のことはご存知でしょうから、破産管財人と連絡を取り、未払い賃金立替制度の適用をしてくれるようにお願いするとよいでしょう。事実上の倒産とは、法的手続をとっていないけれども、事業活動を停止していて、再開する見込がなく、賃金支払能力がない場合です。この場合については、労働基準監督所長の認定が必要です。
次に、労働者が倒産について裁判所への申立て等(法律上の倒産の場合)又は労働基準監督署への認定申請(事実上の倒産の場合)が行われた日の6か月前の日から2年の間に退職した者であることが要件です。
そして、手続は、破産手続開始の決定等がなされた日又は監督署長による認定日から2年以内に行う必要があります。おちおちしていると、請求できるものも請求できなくなってしまうので注意しましょう。
このように、支払いの請求を行い、いざ支払われることとなった場合ですが、支払われるものは、通常の定期的な賃金であり、ボーナス分の支給はされません。また、未払い分が2万円未満の場合には一切支給されません。そして、満額の支払いがなされるのではなく、補償されるのは、賃金の8割までであります。さらに、上記計算による額が全額支払われるのではなく、年齢別に制限があり、88万円から296万円の範囲で上限が定められています。
支払いがなされると、独立行政法人労働者健康福祉機構が労働者に代わって債権を取得し、会社に対し請求していくことになります。そのため、会社としても、この手続をとれば、支払義務を免れるということにはならないので注意しましょう。ただし、破産した場合など、従業員はかわいがってきたのであるから、従業員の給料だけでも何とかしてあげたいというのが心情ではないでしょうか。その場合にはかなり有用な制度であると思われます。貸金債権は、独立行政法人労働者健康福祉機構が代位取得し、以降は同機構が債権者となりますが、結局、破産債権等として他の一般債権者に準じる配当がなされて終了する可能性が高いからです。
以上が未払賃金立替制度の概要でありますが、厚生労働省のホームページにも記載がありますのでご参照ください。また、お近くの労働基準監督署にお問い合わせいただくのがよろしいかと思います。
弁護士 松木隆佳