弁護士 金 崎 浩 之

 

 

不当解雇の裏技

 

1 解雇権濫用法理

  経営者の経営上の悩みのほとんどがお金に関するものか人に関するものです。経営者のストレスの大半はこのどちらかです。

  さて、前回は“お金”に関連するお話として、「営業モデル」を取り上げました。今回は、人に関するテーマを取り上げたいと思います。弁護士の得意分野です(笑)。でも、普通の弁護士からは聴けない話をあえて書きますので楽しみにしてください。

  みなさん、解雇権濫用法理というのをご存じですか?

  解雇権濫用法理とは、正当な理由がなければ解雇権の行使は権利の濫用になる、という判例で確立された法理です。法律上の明文規定がなかったので判例法理となっていましたが、労働契約法ではこの解雇権濫用法理が明文化されました。

  ここでいくつか指摘しておきたいことが2点あります。

  第1は、解雇権の行使は原則として濫用になるということです。つまり、解雇がやむなしと言える特別な事情がある場合に限って、例外的に解雇が適法になる。裏を返せば、原則解雇は違法ということなんです。すごいでしょ。

  第2は、どんなに問題がある従業員であっても、しかるべき手順を踏まずにいきなり解雇してしまうとやっぱり違法になるという点です。こんなに問題を抱えている従業員なんだから、裁判所も分かってくれずはずだという観測を持つのは正直言って甘いです。確かに、常識は裁判所に伝わります。しかし、それでもいきなり解雇すれば“違法”と断ずるのが裁判所だと思ってください。

  第1の問題は、会社が解雇を行う場合、解雇を正当化できるエビデンスをしっかり残しておかなければ後々の紛争で厳しい戦いを強いられることになるということを示唆しております。解雇は原則違法なわけで、適法となるのは例外ですから、紛争になった場合に立証責任を負うのは会社側なんですね。この点は、顧問弁護士がクライアントに対して通常行っているアドバイスだと思いますので、企業社会にも浸透していると思います。

 

2 問題社員でもあっても解雇は違法

  あまり浸透していないのは第2の問題です。例えば、問題社員がいてちゃんと証拠もとってある。そして、解雇に踏み切ったところ、その従業員と紛争に発展…。弁護士に相談してみると、「これはまずい…」という回答。当然、会社は納得がいきません。「こんなにひどい従業員で証拠も押さえてあるのになぜですか?裁判所って常識も通用しないんですか!」と憤る。ごもっともです。しかし、どんなに問題があっても手順を踏んで解雇しないと「違法な解雇」と考えるのが裁判所の思考です。

  あるとき、知り合いの裁判官とこんな雑談をしました。裁判官曰く、「いや、分かりますよ。あの事件は、会社ではなくて従業員が悪い。私だってあんな人と一緒に仕事したくありませんよ。でも、いきなり解雇はまずい。いきなりは…」。

  そもそも問題社員は、その問題性を日々の業務で頻繁に発信しています。昨日まで普通の従業員だった人が、いきなり今日問題社員に豹変するわけないんですね。だから、過去にいくらでも処分する機会があったはずなんです。ところが、会社の親心で「改善してくれるのではないか」という期待も手伝い処分の機会を見逃してしまいます。これがいけない。問題社員に対して、イエローカード、レッドカードを出さずして、いきなり“退場”を言い渡すのは不意打ちになるんです。だから、軽めの処分から徐々に重くしていき、「このままだと君は解雇になるよ」という信号を発信しておかなければならないんです。この努力を怠ると、いくらその従業員に問題があっても、解雇は違法になります。

 

3 労働審判と不当解雇

  最近は、不景気ということもあって解雇事案が増えています。そして、迅速に行われて労働者の保護に資するということで、多くの解雇事案が労働審判に持ち込まれております。

  ここで2点知っておいてもらいたいことがあります。1つは、問題社員の解雇であっても前述のとおり手順が不十分なために適法な解雇と言えないケースがたくさんあります。これは労働審判で も負け筋ですので、会社側は、裁判所から強く和解を迫られると思ってください。もう1つ。さすがにこの解雇は適法だろうと思われるようなケースであっても、労働審判では使用者側が負け筋だという点です。労使紛争では、労働者の保護という要請が強く働くので、労働者側に問題があっても、裁判所は、会社側が和解金を支払うという形での円満解決を望みます。

  問題社員を解雇しているのにお金を支払うなんて、泥棒に追銭ですよね。

  そこで、うっかり不当解雇してしまった場合のとっておきの裏技があります。それは解雇の意思表示を速やかに撤回することです!もし解雇を撤回しないまま争うと、その間従業員が会社に来なくても債務不履行にならないので、働いていなくても賃金が発生しちゃうんです。従業員が労働審判を申し立てる場合、解雇の無効を主張しているのは表向きで、仕事をせずにその間の給料をもらいたいんです。でも解雇が撤回されちゃうと、会社に行かなければならなくなる。それなのに会社に行かなければ“ノーワーク・ノーペイ”です。会社は賃金を支払う必要がない。私の経験だと、解雇を撤回されて会社に復職する従業員はほとんど希です。撤回しても会社に来ませんね。しかも、無断欠勤です。今度はこの無断欠勤を理由に解雇しちゃえばいいんです。さすがに裁判所も1ヶ月上無断欠勤している人間を解雇して“違法”とは言いませんよ。もちろん、無断欠勤中は給料なしです。

  それでもごく希に会社に戻ってくるおかしな人間もいます。でも、 このような人は、真面目に仕事をするつもりで戻ってくるわけではありません。時間の問題でしっぽを出します。その時は、ちゃんと手順を踏んで解雇してください。イエローカード、レッドカードを出して警告してください。問題社員は組織の癌ですから、心から応援しています。強硬な外科手術が必要な場合は、弊事務所までご相談ください(笑)