1 カリスマ営業マンに期待してはいけない
会社の収益を上げるために、会社がすべきことは何でしょうか。
それは「営業」です。特別な経営戦略の中にお金儲けの秘策があるわけではないし、財務専門のCFOが辣腕を振るえばざくざく儲かるというわけでもありません。会社の収益向上の根幹を握っているのは営業力です。
ところで、クライアント企業からのお話を伺うと、会社の営業力がごく少数のカリスマ営業マンに依存しているケースが少なくありません。しかし、このカリスマ営業マンへの極度な依存は、会社の営業力を脆弱なものにしてしまいます。第1に、その営業マンの賃金上昇圧力が強まります。その営業マンが優秀であればあるほど、会社のその営業マンへの依存度はどんどん高まり、賃上げ要求に抵抗できなくなります。第2に、優秀な営業マンはどこの会社も欲しいので、常に転職・引き抜き・独立の危険にさらされていることになります。そして、会社への忠誠心よりもお金が全ての世界になりますので、時間の問題で裏切られることになります。
重要なことは、会社の収益が一部のカリスマ営業マンに依存せず、普通の人たちが普通に営業して収益を向上させられるような体制・仕組みを構築することこそ肝要です。では、そのような体制・仕組みとは何でしょうか。
2 営業コールセンターと訪問営業部隊の峻別
営業の古典的手法は、いわゆる飛び込み営業です。
実は、私には若かった頃、飛び込み営業の経験があります。アルミサッシを売る飛び込み営業をしていたのですが、月平均1件くらいしか契約が取れなかったため、3ヶ月くらいでクビになりました(笑)。正直に言って、飛び込み営業はアートの世界だと思いましたね。訪問の仕方や時間の割り振り、それから見込み客か否かの判断、見込み違い客から撤退するタイミング の決断など、会社の営業マニュアルでは対応しきれません。
この営業手法で確実に契約を取ってこれるのは、一部の天才的営業マンだけですね。私のような普通の人では無理です。
この営業手法の最大の欠陥は効率の悪さです。第1に、玄関を開けてくれる潜在顧客に当たるには、下手な鉄砲をかなり撃たなければなりません。第2に、仮に玄関を開けてくれても、それが全部契約につながるわけではありません。10分くらいの会話で断る人、30分くらいの会話で断る人、そしてひどい場合は1時間も話し込んだのに「やっぱりいりません」と言って断ってくる人もいます。1時間も交渉したのに断られてしまうと、時間のロスは大きいです。その日に訪問できる戸数が減少してしまいます。このあたりの見切りって本当に難しいですよね。
そもそも契約に結びつく顧客に遭遇するためには、絶対的母数を増やさなければいけない。5件訪問すれば1件契約などという都合の良い話はありません。この絶対的母数を増やすためには、自分の足で稼ぐ飛び込み営業ではダメです。
では、どうすれば効率よく母数を増やし、見込みの高い有望顧客に経営資源を集中的に投入できるのでしょうか。
私は、営業戦術の効率化を実現する最も優れた手法は、営業コールセンターの設置だと思っています。その際だったメリットは時間の節約です。まず、ターゲット・エリアまでの移動時間がありません。そして、訪問先から次の訪問先への移動時間も圧倒的に少なくなります。よく訓練された営業コールセンターのテレアポ部隊により、接触できる潜在顧客の母数が劇的に増加します。
そして、コールセンターが発掘した見込み客に限定して、訪問営業部隊を投入します。この人たちは、従来飛び込み営業をしていた人たちです。つまり、発掘された見込み客にターゲットを絞り、訪問営業マンがじっくり話をすることになります。これで飛躍的に営業効率が高まるはずです。
これと併せて、営業日報の簡素化も必要です。営業の現場を見ていると、これにかなりの時間を取られていることが少なくありません。しかし、時間は最も貴重な経営資源です。これに大切な時間が奪われるよりは、1本でも多く電話をしたほうがいいし、1件でも多く訪問したほうがいいはずです。極力、本来の仕事である「営業」に注力できる体制を構築する必要があります。
3 営業にまつわる法律問題
コールセンターを中心に営業活動を展開する場合、特にB to Cの場合は注意が必要です。特定商取引法上の「電話勧誘取引」に当たるので、違法な勧誘にならないようなビジネスモデルを構築しなければなりません。また、クレームをできるだけ少なくするような営業トークのマニュアル化も必須です。クレーム対応に時間を取られると、それだけで本来の営業活動に当てるべき時間を奪われてしまいます。
次に、B to C、B to Bに限らず言えることですが、営業部隊がいる部署は、顧客情報の宝庫です。そして、転職・引き抜き・独立の際に起こる営業秘密の漏洩は、この営業部門を舞台に発生することが大変多いです。したがって、大事な営業秘密を管理する上でも、会社としては不正競争防止法上の営業秘密に精通する必要があるとともに、営業マンとの間の秘密保持契約・競業避止義務契約の締結、営業秘密の社内管理体制の構築などを怠らないようにする必要があります。そうでないと、せっかく強力な営業体制を構築しても、余計な紛争に時間を取られたり、大事な顧客情報を他社に活用されていまいます。
経営戦略と法務戦略はクルマの両輪であることを忘れないようにしてください。