皆様、こんにちは。

1 イントロ

 電車内で肖像権のキャンペーンを謳っている広告を見かけることがあります。実際、人には勝手に自分の姿を撮影されたり、その写真や映像を利用されたりしない自由があります。これが肖像権と呼ばれています。
 もっとも、タレントや芸能人の方々は、マスメディアに露出してPR活動や芸能活動を行うことが前提といえます。そのような立場の人は写真を撮られて使われるのは仕方がないということになるのでしょうか。
 それでは、一般の方々との違いをどのように整理すればよいのでしょうか?

2 肖像権

 日本国憲法をご覧いただければわかりますが、肖像権といった権利が個別具体的に規定されていたわけではありませんでした。裁判において度々問題となり、議論がはじまったとされています。

 例えば、最高裁は、明確に肖像権とは名付けていませんが、「私生活上の自由の1つとして、何人も、その承諾なしに、みだりにその容ぼう・姿態を撮影されない自由を有する」としています(これは刑事事件の判例からの引用です)。講学上では人格的利益の保護(プライバシー的な側面の保護)の要請から、広く認められています。

 このような考え方を前提とすると、個人を勝手に被写体として撮影した場合、その写真自体は1つの著作物となりますが、同時に被写体となった方の肖像権を侵害している状態となります。このため、例えば、民事上であれば不法行為(民法709条)にあたることになって、勝手に写真を撮った人は損害賠償請求をされる余地が生じるわけです。

3 パブリシティ権

 ところで、芸能人の場合、著名であることにより、商品公告に出たりすることで自らの肖像を商品として用いることができます。つまり、自らの肖像が利用されることがある程度織り込み済みといえます。このため、一般の方々に比べ肖像権の保護においてある程度の制約が認められることになります。

 他方で、見方を少し変えると、芸能人の方々の肖像はそれ自体が商品としての価値(顧客吸引力と言われたりします)を有していて、経済的利益や価値を生み出します。そこで、このような経済的利益や価値を保護すべきとして、人格権に由来する権利ととらえて「パブリシティ権」という権利が地裁・高裁の裁判例の中で認められるようになってきたのです。

 大まかに整理すると、一般の方はプライバシーに近い部分を意識した肖像の保護が要請され、他方で芸能人の方は、商品としての肖像を保護するという要請が働いているといえそうです。

4 ピンクレディー事件

 標記の事件は最近になって東京高裁より判決が出たものです(東京高裁平成21年8月27判決)。これは「パブリシティ権」の侵害をめぐる裁判例であり、ピンクレディーの写真を無断使用した出版社に対して本人らが損害賠償請求をしたという事件です。

 東京高裁は、本人らの控訴棄却、つまり損害賠償請求は認められないという結論を下しました。その理由は、今回使用された写真はピンクレディーの振り付けを読者に記憶喚起させる手段として掲載されたに過ぎないので、ピンクレディーが社会的に著名な存在に至る過程で許容することが予定されていた負担を超えて、氏名・肖像を排他的に支配する権利を害されていたとはいえない、ということだそうです。

 どうやら、今回はグラビアのように写真そのものが商品になる(=利益につながる)ような使い方をしていないので、パブリシティ権を侵害しているとはいえないと考えているようです。判決文をご覧になりたい方は「裁判所判例Watch」などのサイトをチェックしてみてください。

 今回もお付き合いいただきありがとうございました。