1 解雇権濫用法理
遅刻や欠勤がやたらと多く、何度注意してもなかなか直らないという問題社員いませんか?
どこの会社でも、こういう社員って少なからずおりますよね。
問題は、このような社員を遅刻・欠勤が多いことを理由に解雇できるかです。
まず、労働者がちゃんと決まった時間に会社に来て仕事をすることは、当然に雇用契約の内容となっています。というか、雇用されている以上、基本中の基本ですよね。
したがって、遅刻や欠勤をすることは、原則として社員の雇用契約上の債務不履行になるので、普通解雇の解雇事由に該当することになります。
しかしながら、我が国の最高裁判例は、いわゆる解雇権濫用法理を確立しており、「解雇事由がある場合においても、使用者は常に解雇しうるものではなく、当該具体的な事情のもとにおいて、解雇に処することが著しく不合理であり、社会通念上相当なものとして是認できないときは、当該解雇の意思表示は解雇権の濫用として無効になる」(高知放送事件・最判昭和52年1月31日)としています。
では、どのような場合に、「解雇に処することが著しく不合理であり、社会通念上相当なものとして是認できない」と判断されるのでしょうか。
それは、遅刻・欠勤の理由、程度、本人の反省の有無、平素の勤務状況、業務に与えた影響、同種事案における他の処分との均衡、従来からの取扱い等です。要するに、様々な事情を総合考慮するという意味です。わかりにくいですよね。私たち専門家でも、「ここまでひどければ大丈夫です!解雇は有効です」となかなか太鼓判を押せないんですね。よほどのことでもない限り、いきなり解雇するのは謹んで、例えば減給程度にとどめておいたほうが無難です。
2 年間で72日欠勤、99回遅刻早退は解雇できるか
これはひどいですよね。年間で72日も欠勤です。昔は週休2日制ではなかったことを考慮に入れたとしても、休日を除けば1年間の3分の1くらいは欠勤しているんじゃないでしょうか。
遅刻・早退もすごいです。99回も遅刻早退があったら、本人が反省しているとは到底思えません。平素の勤務状況も劣悪です。ここまでやられると、業務への支障も少なくなかったと思われます。
しかし、この事例では、会社は勤務不良を理由に論旨解雇しましたが、東京地裁は解雇を無効と判断しました(神田運送事件・東京地判昭和50年9月11日)。
すごいでしょ!なぜだと思いますか?それは、
「勤務状態の不良について、これまで会社において何らの制裁措置を執るなどして警告した事実がなかった」からです。
要するに、普段の会社の対応が甘すぎたんですね。この会社の場合、普段から甘く対応し何らの制裁措置を執らなかったばかりか(これも不思議なんですが)、初めて執った制裁措置がいきなり解雇だったんです。確かに、年間72日の欠勤、99回の遅刻早退はあまりにもひどすぎますが、会社の平素からの甘くずさんな対応が仇となりました。
これに対する対策としては、普段から厳しい対応を心掛けることです。そのためには、平素からこまめに制裁を加えておくべきです。そして、制裁を加える場合には、最初は軽い制裁から段々重くしていくことがポイントです。今まで何の制裁も加えていないのに、突然解雇などという乱暴な対応はくれぐれも慎んでください。