1 人材派遣・請負業界

 2009年8月8日発行の「週刊ダイヤモンド」(第97巻32号通巻4290号)に大変興味深い記事が掲載されていました。
同紙の見出しには、

 事業停止のクリスタルが蘇生
 派遣法規制強化の死角が露呈

とあります。
 同紙によると、違法派遣により事業停止命令を受けたフルキャストが、リストラの一環として、子会社のフルキャストファクトリーを「総合請負サービス」なる会社に売却したとあります(前述同紙18頁)。

 何が問題なんかというと、事業譲渡を受けたとされる総合請負サービスという会社の生い立ちです。
 同紙の調べによると、実は、この会社の社長がクリスタルグループの幹部職員だったというのです。

 クリスタルグループは、2006年10月、子会社のコラボレートによる偽装請負が原因で、業務停止命令を受けた企業です。

2 派遣モデルから請負モデルへ

 フルキャストファクトリーは、製造業への人材派遣に特化したビジネスを展開していた会社です。2008年9月期の決算では、売上高約129億円、経常利益約5億円を計上したほどの会社です。

 そうすると、今回の事業譲渡は、人材派遣のビジネスモデルが請負のビジネスモデルに変遷していくことを示唆しています。
 ご存知のとおり、未曾有の不況で派遣切りが相次ぎ、労働者派遣法の規制強化が叫ばれるなど、派遣業界には逆風が吹いています。今月末の国政選挙では、民主党が政権を取るのではないかという観測が報道されていますが、民主党もマニフェストの中で、労働者派遣法の規制強化をうたっています。

 

 しかし、請負業界には、労働者派遣のような規制がありません。
 結局、派遣業界が請負業界に衣替えすることにより、労働者派遣法上の規制を免れるのではないか、との憶測を呼んでいます。
 同紙も、「派遣法が規制強化されれば、派遣事業者は、監督官庁も業法もない請負会社として生まれ変わるだけで、なんら実態は変わらない」(同紙20頁)と論じています。

3 偽装請負でなければ問題はない

 しかし、私は、派遣業者が請負業者になること自体に問題があるとは思いません。
 問題は、派遣業者が、派遣法を脱法するために、偽装請負を行うことが問題なのです。
 偽装請負がどうして「偽装」なのかというと、請負を装っているからです。要するに、法的には請負契約の要件を満たしていない、請負契約を装った実質的労働者派遣が問題なわけです。
 したがって、従来通り、偽装請負の取り締まりがしっかりなされれば足りるはずです。

 でも、従来の派遣業者が、偽装請負ではなくて、本当の請負業者になってしまうのであれば、派遣法規制強化からの潜脱という批判は当たりません。なぜならば、このような場合、当該事業者は、そもそも派遣事業を名目的にも実質的にも行っておらず、ただの請負事業者に過ぎないからです。