1 キャッシュ・フロー経営

 私は、公認会計士や税理士の先生方ほどではないにしても、職業柄、会社の決算書を見る機会がよくあります。
 そこで気づくのは、多くの会社では、なぜか定額法が人気があります。 私は、定額法が大嫌いで、経理には定率法を指示しています。なぜかというと、定率法の方がキャッシュ・フロー経営の観点からは断然お得だからです。

 財務会計や簿記の勉強をしたことがある人は誰でも知っていることですが、いわゆる損益計算書に出てくる利益は、営業利益であれ経常利益であれ、会社に存在する現実のキャッシュとは直接関係がありません。というのは、会計学上の収益や費用は、会計学のルールに基づいて決まるものであり、会社を出入りするキャッシュで定まるわけではないからです。

 したがって、損益計算書上は「黒字」なのに会社が倒産してしまうなどという、いわゆる「黒字倒産」は現実的にあるわけです。いくら黒字でも、キャッシュがなくなれば、会社は回りません。
 その意味で、今日ではキャッシュ・フロー経営が重視されているわけです。

2 減価償却とキャッシュの関係

 さて、ファイナンス理論でよく活用されるフリー・キャッシュ・フロー(FCF)で確認してみましょう。
 FCFの算出は、

・営業利益×(1-T) +
・減価償却費 +
・投資 -
・ワーキング・キャピタルの増加分 -

 で求めます。

 ここで、(1-T)のTは、Tax(税金)です。
 まず、話を単純化するために、税金をゼロと仮定してみましょう。
 税金がなければ、減価償却で定率法を使おうが定額法を使おうが、FCFに影響はありません。
 定率法は、ご存知のとおり、耐用年数に応じて、当該固定資産に一定率を乗じた額を経費とみなす方法であり、定額法は、固定資産の額を耐用年数で割った額を毎年経費とみなそうという方法です。
 したがって、定率法だと初年度に最も多い額を経費にでき、毎年、その額が減少していきます。このことは、初年度の利益が最も少なく計上され、毎年、利益が増えていくという計算になります。
 定額法の場合は、毎年、同じ額が経費なので、利益も同じです。

 さて、このことが何を物語っているかというと、減価償却費の方法で定率法と定額法のどちらを選択したかで、キャッシュフローには直接影響しないということです。減価償却費は、結局、会計学のルールに基づいて経費になっているわけで、キャッシュフローを考える際には、支出がなかったものと考えるわけです。だから、プラスするわけですね。

3 税金が与える影響

 曲者は税金です。
 仮に法人税を40%と仮定しましょう。FCFの一番上に出てくる

 営業利益×(1-T)

 は、要するに営業利益の60%がキャッシュとして残りますよ、ということを意味しています。

 そうすると、FCFにどう影響するか。
 そうです。定率法を採用していれば、初年度に最も多くを経費にできますから、利益を少なくできる、つまり税金も少なくてすむわけです。定額法ではこうはなりません。
 したがって、定率法は、税金を後払いにする効果があるわけです。
 そして、同じ金額なら将来のキャッシュよりも現在のキャッシュの方が価値が高いわけです。例えば、現在の100万円と1年後の100万円は同価値ではありません。キャッシュは運用すれば利潤を生みます。例えば、その運用利回りが年5%ならば、1年後には105万円なのです。したがって、現在の100万円と1年後の105万円が同価値になるのです。
 したがって、同じ額の税金を支払うのであれば、できるだけ後払いにしたほうがいいわけです。同額の場合、将来のキャッシュよりも現在のキャッシュのほうが価値がありますから。

 キャッシュ・フロー経営が重視される今、減価償却は定率法を採用すべきです。
 もっとも、愛国心があって、国に貢献したい、国のキャッシュ・フローを改善してあげたい、と考える社長さんは、定額法のままでいいと思います。