前回も裁判員制度との付き合い方について見てきましたが、今回は、その続きのお話をします。
まず、裁判員のために休暇を利用した場合の扱いについてです。
裁判員の職務を行うために休んだことを理由に解雇などの不利益な取扱いをしてはいけません。ただ、裁判員の仕事に従事するための休暇制度を設けることまでは法律で定められていないので、これは企業の独自の判断にゆだねられることになります。従業員が、これに有給休暇を当てること自体は許されるでしょう。
従業員が有給休暇を得るためには、法律上では、全労働日の8割以上出勤することが必要であります(労働基準法39条1項、2項)。そして、同条7項によれば、労働災害による休業や育児休業等、一定の事由に基づく休業期間は、同条1項、2項の適用に当たっては「出勤したものとみなす」としています。他方、裁判員候補者として出頭したり、裁判員等として職務に従事したりした場合は「出勤したもの」とみなされません。しかし、法律に定められた正当な手続により労働者が労働義務を免除されているものであるため、8割出勤の算定に当たっては「全労働日」から除外して扱わなければなりません。なお、当事者の合意によって、「全労働日」に含めた上で、労働者に有利に「出勤したもの」として取り扱うことは差し支えありません。
このように、従業員が裁判員の職務を行う際の休暇の取扱いには十分気をつけるようにしてください。
次に、守秘義務との関係について見ていきます。
裁判員法では守秘義務について定められていますが、まず、裁判員等に選ばれたことも公にしてはいけないということになっています。しかし、これは、インターネットに書き込んだり、放送したりするなど、不特定多数の人に分かるようにしてはいけないということに過ぎません。前回も説明しましたように、会社の上司や同僚等に話し、仕事の調整をしたり、休暇申請をしたりすること自体は禁止されていません。また、家族や親しい友人などに日常生活の中で話すことも許されます。なお、裁判員等でなくなった後に、自分が裁判員であったことを公にすることは禁止されていません。
その他、事件に関して守秘義務がありますが、これについては、会社で経験を聞いたり、感想を聞いたりすることがどこまで許されるかという問題があります。会社にとっても今後のために経験を話してもらうことは有意義かもしれません。
漏らしてはいけない秘密には、1評議の秘密と2評議以外の裁判員としての職務を行うに際して知った秘密とがあります。
評議の秘密とは、どのように評議が進んだのかとか、誰がどのような意見を述べたのかとか、誰が賛成し、反対したのか、自分がどのような意見を述べたのか、といったような事情を話してはいけないということです。ただし、裁判自体は公開の法廷で行われますので、裁判に現れた事項については話してもいいことになっています。そのため、どんな点が問題になったのかといったことは話しても良いと思われます。
感想については、まったく聞いてはいけないというわけではありません。実際、任意参加で記者会見を開き、感想などをテレビ報道してもらう予定があるそうです。
さて、具体的にはどの程度話していいかというと、たとえば、この点については非常に悩ましく、議論が盛んにされた、という程度は話してもらっても大丈夫ですが、この点についてはまったく意見が割れませんでしたという感想は、みんなの意見が特定されてしまうため、話してはいけません。
このように、守秘義務については微妙な点も多いので、注意して感想や経験を聞くようにしましょう(基本的には話す方の問題ですが、積極的に聞きだしたほうも問題になりかねません)。
なお、もう一方の、評議以外の職務上知った秘密には、例えば、記録から知った被害者など事件関係者のプライバシーに関する事項、裁判員の名前などが該当します。これらは絶対に聞いてはいけませんので注意しましょう。
弁護士 松木隆佳