中国国際経済貿易仲裁委員会(CIETAC)は、中国では一番仲裁の実績があり、まずここでは、CIETACの仲裁規則に規定するプロセスを簡単に説明します。
1.仲裁の申立
申立人又はその代理人は、仲裁申立書1式5部を作成しCIETACに提出します。仲裁申立書には、下記の内容を明記しなければなりません。
(1) 申立人及び被申立人の名称及び住所。
(2) 仲裁申立の根拠となる仲裁合意。
(3) 事件の内容及び紛争の要点。
(4) 申立人の仲裁請求。
(5) 仲裁請求の根拠となる事実及び理由。
2.事件の受理
CIETACは仲裁申立書を受領した後、仲裁申立人に仲裁費用の予納請求書を送ります。仲裁申立人が仲裁費用を予納した後、仲裁委員会が仲裁通知書及び仲裁委員会の仲裁規則、仲裁人名簿及び仲裁費用表を、各1部ずつ当事者双方に送付します。
3.仲裁人の選任
申立人及び被申立人は、仲裁通知書が受領された日から15日以内にそれぞれ1名の仲裁人を選任します。CIETACの指定する仲裁人名簿以外の人を仲裁人として選任することも可能です。仲裁人名簿以外の人物を仲裁人として選任する際には、CIETACの仲裁人としての資格を有するか否かについて、CIETACと調整する必要です。
首席仲裁人は申立人と被申立人が共同で選任することができますが、実務的に、双方の思惑もあり、最終的にCIETACに任せるケースが多いです。
*ここはポイントです。事前調査の大切さ。
仲裁人の選任は、その後の仲裁判断に直結するので、慎重に選任する必要があります。特に、争いにおける法律上の規定がなお曖昧で学者間の意見も相違する場合には、自分の主張に 同調する仲裁人を選任すれば、その言い分が認められやすいです。このため、仲裁人を選任する際に、時間をかけて紛争事件に対する仲裁人の態度、見識などを丹念に調査する作業が重要です。
4.仲裁廷の設置と被申立人の答弁
仲裁人が確定された後、CIETACは申立人および被申立人に仲裁廷構成通知を出します。
仲裁規則によれば、被申立人は、仲裁通知を受領した日から45日以内に、仲裁委員会秘書局又はその分会の秘書局に答弁書を提出しなければなりません。被申立人の申請により、仲裁廷が正当な理由があると認めたときは、答弁書提出期限を適当な期間延長することができます。
*ここはポイントです。あきらめないでね。
実務では被申立人が期間を過ぎて答弁書を提出するケースがよく見受けられます。このとき、答弁書を受領するか否かについて仲裁廷に決定権あります。実際には仲裁廷が受領するケースがほとんどです。
5.審理
当事者双方が請求し、又は当事者双方の同意を得た後、仲裁廷も開廷審理をする必要がないかぎりに、書面審理となります。あくまでも特殊なケースなので、通常は開廷審理となっています。
第1回開廷審理の期日については、仲裁廷はそれを決定し、開廷の20日前までに各当事者に通知を送ります。当事者に正当な理由がある限り、開廷の延期申請ができます。開廷10日前までに延期申請書面を仲裁廷に提出しなければなりません。延期の可否については、仲裁廷が決定します。
6.仲裁判断書の作成
仲裁廷は、通常、6ヶ月以内に仲裁廷は仲裁判断を下す必要があります。なお、仲裁廷の要求を受けて、仲裁委員会主任が確実に正当な理由及び必要性があると認めたときは、当該期間を延長することができます。
仲裁判断書の作成日は、仲裁判断の法的効力の発生日となります。仲裁判断の効力は終局的であり、当事者双方に拘束力があります。
7.仲裁費用等の負担
仲裁廷は当事者が最終的に仲裁委員会に支払うべき仲裁費及びその他の費用について判断する権限を有しています。つまり、日本の裁判と違って、CIETACの仲裁では、仲裁費用について、敗訴当事者が相手方の分を負担することが認められます。
*ここはポイントです。訴訟より関連費用が補償されやすい。
仲裁廷は、敗訴当事者により補償される勝訴当事者が事件を処理するために支払った費用が合理的なものであるか否かを判断するとき、事件の判断結果、複雑さの程度、勝訴当事者及び代理人の実際の作業量または事件の紛争金額などの要素を具体的に考慮します。
8.仲裁判断の執行
もし、敗訴当事者が仲裁判断に従わず、その義務を履行しない場合には、敗訴当事者の所在地の中級人民法院に仲裁判断の執行を申立てる必要があります。
中国事業推進室室長 宋煒
著者プロフィール
宋煒 、経営学博士(横浜国立大学卒)、中国弁護士、2002年から日系企業の経営・法律の顧問を担当しています。 2006年、中国司法省認定の全国優秀弁護士事務所である煒衡(イコウ)弁護士事務所に入り、2007年、中国弁護士資格を取得し、2008年、日中弁護士事務所の戦略提携により、弁護士法人ALGに移動しました。