1.労働者派遣法改正案
2008年11月4日、労働者派遣法の改正案が国会に提出されました。
改正案では、グッドウイルで話題になった日雇派遣の問題の影響で、日雇派遣を原則禁止としています。
もうひとつの改正の目玉は、派遣会社における派遣労働者の常用化の促進です。すなわち、ご承知のとおり、労働者派遣には常用型と登録型がありますが、改正案では登録型の派遣労働者を常用化する努力義務が課されています。
今回は、「派遣会社は生き残れるか?」と題して、この後者の問題に焦点を当てて論じてみたいと思います。
2.登録型は、派遣業界のジャスト・イン・タイム
常用型派遣では、派遣会社と派遣労働者の関係は通常の雇用と異なりません。すなわち、その派遣労働者の派遣先がなくても、派遣会社はその派遣労働者を解雇できない、賃金を支払わなければなりません。派遣会社に雇用し続けられるわけですから、労働者の雇用は安定します。
しかし、ここで無視できないのは、「そもそも論」です。
労働者派遣の基本的ビジネス・モデルは、派遣先企業にとって固定費である人件費を変動費化することにありました。したがって、派遣であれば変動費化できるので、派遣先にとっては、その派遣労働者が常用型か登録型かは、本質的には重要な問題ではありません。
しかし、多くの派遣が、「登録型」であるというのが現状です。
派遣会社にとっては、派遣労働者は、労働者というよりは「商品」です。人間を「商品」と称するのは私も抵抗がありますが、本質を理解してもらうには、回りくどい表現を使うよりも、本質を言い当てた表現のほうが正確な理解を得られると思いますので、お許しください。
さて、派遣会社にとって派遣労働者が商品だとすると、派遣会社が抱えている派遣労働者は「在庫」に相当します。
在庫の管理は、製造業を長年悩ましてきた問題です。なぜなら、多くの在庫を抱えることは、その企業の財務を圧迫するからです。
在庫の管理には、資金調達機能があると言われています。資金調達というと、新株や社債を発行したり銀行から借りれたりなど、外部から資金を調達するのが典型的ですが、在庫を大幅に減少させると社内から資金調達できます。例えば、数億円相当の在庫があるということは、裏を返せば、その在庫がゼロになると、数億円のキャッシュがあることを意味します。在庫をなくせば、それに相当するキャッシュが生まれ、そのキャッシュを別のことに使えます。
したがって、この在庫をどのようにしてなくすか、又は、減少させるかが製造業の課題だったんですね。トヨタ自動車を代表とする「ジャスト・イン・タイム方式」は、まさにこの在庫をなくすためのツールで画期的だったんです。
労働者派遣における登録型派遣とは、まさにこのジャスト・イン・タイムに相当します。つまり、在庫としての派遣労働者を抱えなくてすむわけですね。登録型派遣という制度によって、労せずしてジャスト・イン・タイム方式を導入できちゃうわけです。まさにこれが、労働者派遣の「おいしいビジネス・モデル」だったはずなんです。
3.常用型派遣が意味するもの
ところが、これが常用型になると、この在庫管理のビジネスモデルは通用しません。確かに常用型でも、派遣先からオファーがあって派遣労働者を迅速に募集・採用する仕組みを構築すれば、一見在庫を抱えなくてすむように見えます。
しかし、労働者派遣の場合には、通常の製品や商品と違って、「返品」が予定されています。製品や商品は、それが不良品でない限り、原則として返品はありません。
ところが、労働者派遣の場合には、雇用の調整に利用されているわけですから、今回の不況のような事態になれば、すぐに返品されてしまいます。
返品された後が大変です。派遣先を失っても、常用型派遣では、派遣会社はその派遣労働者を雇用し続けなければなりません。すぐに新しい派遣先が見つかればよいですが、見つかるまではその派遣労働者は眠った在庫になってしまいます。
しかも、派遣労働者は、製品や商品と違って「人」です。労働基準法等の労働法が製品・商品を保護しないのに労働者を保護するのは、まさに労働者が人だからです。人である以上生活があります。その生活を安定させてあげる必要があります。
このような人である労働者を「在庫」としてしまうことは、製品や商品の在庫を抱えるのと比較にならないくらいお金がかかってしまうのです。売れるまで(新しい派遣先が見つかるまで)、毎月賃金が発生してしまいます。通常の在庫の保管費用程度ではすみません。また、人ですから、陳腐化等による在庫処分もできません。労働者という在庫は、大きな固定費として経費を圧迫してしまうのです。
この問題を解決できたら、労働者派遣事業における大きなイノベーションですよ。
さすがに、改正案も派遣労働者の常用化の「努力義務」にとどめたのも分かる気がします。
したがって、私は、この常用化の促進に関しては、かなり懐疑的に見ています。