1.2009年問題とは
2009年問題とは、製造業の派遣期間が2007年3月、3年間に延長されたため、3年間はその派遣労働者に継続的に働いてもらうことができるようになったのですが、2009年3月でその期間が経過してしまいます。
3年を超えてその派遣労働者を継続的に働かせることはできません。
それで、この派遣期間が過ぎた後、いままで派遣労働者がやっていた仕事を誰にやらせるのか、という問題がいわゆる「2009年問題」です。
2.基本的スキームの類型
第1のスキームは、理想的と思われる直接雇用です。
しかし、そもそも派遣先企業のニーズとしては、本来固定費である人件費を変動費化できることにあります。そもそも派遣料は、短期的には直接雇用よりも高くつきます。なぜなら、労働者派遣は、派遣会社が派遣労働者に支払う賃金と派遣先企業から受け取る派遣料の鞘取引で利益を稼ぐビジネス・モデルだからです。したがって、派遣先企業が派遣会社に支払う派遣料は、直接雇用した場合の賃金よりも割高です。
しかし、それでも製造業をはじめとした多くの企業が派遣労働者を利用するのは、人件費を変動費化できるからです。つまり、収益が増えているときにはこの派遣労働者を大いに活用し、経営不振に陥ったら派遣労働者を切ってしまう…。特に、製造業における工場の労働者に支払う賃金は、直接労務費になりますから、いわゆるスタッフ部門の従業員の賃金とは違います。販管費ではなく、売上原価を構成してしまいます。だから、これを変動費化したいというニーズは、派遣先企業に確実にあると思います。なかなか直接雇用に切り替えることを決断する派遣先企業は少ないと思います。
第2のスキームは、いわゆるクーリング期間方式です。
これは、派遣期間が満了した派遣労働者を一定期間(例えば、3ヶ月)直接雇用に切り替え、その後に派遣に戻して働かせるという方式です。実態としたは、その派遣労働者は3年を超えて働いているのですが、短期間の直接雇用が間に入ることによって、派遣労働者として3年超働かせることを回避する方式です。このスキームを導入した派遣先企業も少なくないのではないでしょうか。
しかし、このスキームの問題は、労働者派遣法の脱法行為に該当するおそれがある点です。「2009年問題への対応について」と題する2008年9月26日の通達(職発第0926001号)は、最初から派遣に戻すことを予定しながら直接雇用することは職業安定法44条に違反するという見解を示しています。このスキームが通用してしまうと、理屈の上では、3年ごとに短期の直接雇用を間に挿入することによって、永久に派遣労働者を活用できてしまいます。それでは、派遣期間の制限を設けた趣旨が没却されてしまいますよね。なので、このスキームはあまりお薦めできません。
第3のスキームは、請負・業務委託方式に切り替える方法です。
しかし、業務請負等の方式を採用すれば、従前の偽装請負問題が再浮上します。偽装請負問題が大きな社会問題となり、派遣元と派遣先との間で、これまでの業務請負方式を派遣方式に切り替えたはずです。したがって、単に業務請負方式に戻しただけでは、過去の問題が再浮上するだけで根本的解決になりません。
そこで、この方式を採用するのであれば、偽装ではなく本当の請負にする必要があります。この点に関しては、ご承知の通り、「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準」(告示37号)が有名です。この告示の中で、請負と労働者派遣の判断基準が示されているわけです。この告示の要件を全て満たすのはかなり高いハードルなのですが、幸いにしてこれは法律ではなく行政の指導基準にすぎないので、この基準をクリアーしなければ偽装請負と判断されるとは限りません。最終的には裁判所の判断になりますが、なるべきこの基準に近づけて制度設計しないと紛争は避けられないでしょう。
3.不況の影響は
皮肉にもリーマンショックに端を発した不況は、この問題を緩和したと思います。
なぜならば、2009年問題とは、派遣期間が満了した派遣労働者をどうやって活用するかという問題ですが、不況のため多くの企業が派遣切りを余儀なくされたからです。切ってしまう派遣労働者について、どうやって継続的に働かせるかを考える必要はありません。
しかし、だからといって労働者派遣のニーズがなくなったわけではありません。派遣会社にとっても、派遣先企業にとっても、この不況をどう乗り切るかが正念場です。