1.遅れを取る日本のEPA・FTA

 2009年6月21日付日経新聞の朝刊に、日本のEPA・FAT戦略に関する記事が出てました。

 同紙によると、韓国は、2007年4月にすでにアメリカとFTAを締結しており、2009年3月にも、EUと暫定合意したとか。
 韓国は輸出依存度が高いので、コメを除くその他の農産物について、関税撤廃に踏み切ったそうです。英断だと思います。

 これに対して、日本は、相変わらず遅れているようです。
 アメリカとの間でも、やはり農業問題がアキレス腱となってEPAないしFTAの締結が未だに実現していません。

 さて、本題に入る前に、EPAとFTAの違いを正確に知らない人のために、簡単な解説をしておきます。
 まず、簡単なFTAのほうから。FTAは、Free Trade  Agreementの略で、自由貿易を実現するために関税撤廃や低い税率の適用を盛り込んだ二国間(又は少数国間)の合意です。Free Tradeですから、対象は貿易です。

 これに対し、EPAは、Ecnomic Partnership Agreementの略で、FTAの考え方を貿易以外にjも及ぼすことを内容とした二国間(又は少数国間)の合意です。「経済連携協定」と呼ばれています。例えば、人の自由化などはEPAのテーマで、日本の場合だとインドネシアやフィリピンからの看護師、介護福祉士の受け入れがそうです。
 でも、EPAは、経済連携ですから、当然貿易も含んでいます。

2.日本の軸足はWTO?

 前述の日経新聞によると、日本は、「欧米とのEPAの早期締結は難しい」と判断し、当面はWTOの多角的貿易交渉(ドーハ・ラウンド)の妥結に全力を挙げる方針だそうです。

 騙されてはいけませんよ!
 WTOの多角的貿易交渉に全力を挙げる、ということは、裏を返すと、何もしないと宣言するのと同じです。

 私は、WTOの機能を否定するつもりはありませんが、そもそもなぜFTAやEPAなどといったものが登場したのか、その背景を考えれば分かります。国際経済の常識です。
 要するに、WTOができる前の、GATT時代からの反省です。多数国で貿易交渉をすると、それぞれが自国のエゴを言い出し、話がまとまらない。GATT時代からなかなか前進しなかったわけです。
 ならば、合意できそうな国とだけで合意をしちゃおう、というのがFTAやEPAの発想です。
 だから、日本がWTOに軸足を移すということは、みんなでワイワイ、ガヤガヤ議論して、頑張っているというパフォーマンスは国民にアピールする、でもいろんな国が自国の都合ばかり主張するので、前進しなかった、でもそれは別に日本が悪いわけじゃない、という話に持って行きたいわけです。
 そもそも農業問題が足かせになってEPA・FTAを締結できないのに、どうしてWTOだと話がまとまるんですか?WTOでも同じように足かせになるはずです。

3.EPAやFTAの経済効果

 EPAやFTAは、それを締結した当事国にとっては大きなメリットです。
 しかし、蚊帳の外に置かれた第三国にとっては、大きな弊害になります。

 ちょっと、頭の体操で思考実験をしてみましょう。
 話を単純にするために、世界には、アメリカと韓国と日本の3国しかないと仮定しましょう。世界の貿易は、この3国で成り立っています。
 そして、それぞれの国が、外国製品に対して、平均30%の関税をかけているとします。
 さて、ある日、アメリカと韓国がFTAを締結し、関税をゼロにしました。でも、どちらの国も、日本に対しては、30%の関税を維持しています。
 もうお分かりだと思いますが、今までは3国がそれぞれ30%の関税を相手国にかけていたので、ある意味フェアな関係にありましたが、アメリカと韓国が二国間で関税を撤廃したことにより、競争関係はアンフェアなものに変わります。日本の製品だけ、アメリカや韓国では30%増しの価格になるからです。
 その結果、容易に想像できるのは、日本のアメリカ人のお客様は韓国に取られ、日本の韓国人のお客様はアメリカに取られてしまうという結末です。
 こうして、日米・日韓の貿易は縮小し、米韓の貿易が拡大します。

 世界中が関税を撤廃したら、この問題は発生しません。どこの国も関税がゼロなので、フェアな関係が維持されたまま、自由貿易が実現します。
 この点を指摘して、EPAやFTAを通じた自由貿易の推進には否定的な評論家もいます。「やっぱり、WTOでやるべきだ!」と。

 しかし、私は、EPAやFTAを基軸にしたほうが賢明だと思います。
 確かに、EPAやFTAには、アンフェアな貿易という負の経済効果がありますが、その結果、デメリットを被る国も、最終的には重い腰を上げて「やっぱり、俺も仲間に入れてくれ」となる可能性があるからです。アンフェアな状態から抜け出そうと思ったら、自分もEPA・FTAを結ぶしかないのです。
 現実に、EPAやFTAは、欧米、東アジア、ASEAN諸国、アフリカなど、大きな広がりを見せています。
 中国なんか、アフリカや湾岸諸国とも交渉しています。

 今回の記事を読むと、マレーシアのマハティールの言葉を思い出します。
 ”China acts. Japan reacts.”
 (中国は行動するが、日本は対応するだけだ)

 重い腰を上げるのも、日本が一番最後なのかもしれませんね……