中国の債権回収における紛争解決ノウハウ ③
―――仲裁地の選択について

 事前に書面の仲裁合意を締結した場合、当事者間で紛争解決を仲裁機関に委ねることも、紛争解決における有効な手段の一つです。

 仲裁機関につきまして、日本あるいは中国のどちらの仲裁機関にするか、若しくは第三国・地域の香港、シンガポール、スウェーデンストックホルム商業会議所仲裁裁判所にするか勿論当事者の自由です。

 しかし、どこの仲裁機関にするのか、契約の準拠法を考慮した上で決めた方が得策だと思われます。たとえば、中国法を準拠法とする場合、わざわざ外国の仲裁機関を選んで仲裁を行ったとしても、上手く行かないリスクが高いと思われます。ご存知のように、どこの国の仲裁人でも、あくまでも自国の法律若しく経営貿易などの専門家です。これらの仲裁人が必ずしも中国法を熟知しているわけでもなく、また関連経験が少ないため、正確に紛争を解決できるのかという点についても疑問の余地が残ります。不本意で当事者両者とも満足できない結果となってしまうケースが多いです。

 また、当事者は自国で仲裁を希望する願望が強い傾向があります。たとえば、日本の当事者は日本での仲裁を、中国の当事者は中国での仲裁をといったふうに、自国の仲裁機関をお互いに主張し、譲らないなど、そこで、解決方法としては、まったく別の第三国の仲裁機関に要請するか、または相互主義を採り、日本の当事者が仲裁を申立てた場合は中国の仲裁機関に、中国の当事者が仲裁を申立てた場合は日本の仲裁機関にするといった方法が有効と思われます。

 争う経済利益が巨額ではない場合は、中国の仲裁機関がお勧めできると思われます。
 コストの節約だけではなく、また中国において外国の仲裁機関が下した仲裁判断を執行するためには、中国の裁判所にこれを申立てる必要があります。結果的に執行の側面から見た場合、中国の仲裁機関による仲裁判断は一番手間がかからないということになるでしょう。

 近年、中国国際経済貿易仲裁委員会(CIETAC)が渉外の仲裁を多く引き受けており、関連経験が豊富なうえ、その公平な仲裁判断も評判を呼んでいることから、最近はここに仲裁をゆだねるケースが増えてきているようです。

著者プロフィール
 宋煒 、経営学博士(横浜国立大学卒)、中国弁護士、2002年から日系企業の経営・法律の顧問を担当しています。 2006年、中国司法省認定の全国優秀弁護士事務所である(イコウ)弁護士事務所に入り、2007年、中国弁護士資格を取得し、2008年、日中弁護士事務所の戦略提携により、弁護士法人ALGに移動しました。