1.中国国内での経営統合

 今回は、中国に進出している豪英系企業の事業統合の話をしたいと思います。
 この事業統合は豪英系企業同士の事業統合なので、日系企業は直接関係ありません。
 しかし、外資同士の事業統合に対して、中国政府がどのような姿勢で臨んでいるかを知ることは、日系企業にとっても重要な情報です。
 そこで、今回このテーマを取り上げることにしました。

 2009年6月16日付の日経新聞(朝刊)によると、豪英系資源大手のBHPビリトンと豪英系資源大手のリオ・ティントが、鉄鉱石事業の統合で合意したそうです。これを受けて、中国商務省の報道官は、「中国の独占禁止法を適用できる」として、統合の是非を審査する考えを示したとか。

2.違法か、適法か?

 中国の独禁法は、2008年8月に施行されたばかりの新しい法律です。
 今回の豪英系の企業同士の事業統合が、中国独禁法に違反するものであるか否かは、報道の範囲では資料不足で何とも言えません。
 この事業統合によって、企業間の競争を減殺する効果があるか否かは、その事業における市場の定義、市場の規模、当該市場におけるシェア、競合他社の数及びそのシェア等を総合的に判断しなければわかりません。
 第三者の立場からすると、そのような資料を入手するのが困難ですから、独禁法違反となるか否かをここで議論するのは適切ではないと考えます。

 加えて、中国の独禁法は施行されて1年にもならない新しい法律ですから、実務の運用が固まっていない点も、判断を難しくします。
 先ほども申し上げたように、競争減殺効果があるような事業統合か否かは、市場構造の分析を前提とします。法律の条文を読めば、直ちに回答が導ける性質のものではありません。
 したがって、暫くの間、実務の運用を待って適法か違法かの基準が読み取れるようになり、企業にとってようやく一応の目安になるというのが現実です。
 ところが、中国独禁法では、そのような実務の運用の集積がまだ十分ではありません。
 このような事情から、具体的な事例が中国独禁法に違反するものであるか否かは、専門家にとっても難しい判断であることを知っておいてもらいたいと思います。これも、中国でビジネスを展開する上で、企業が頭の片隅に置いておかなければならないリスクです。

3.中国政府干渉の経緯

 中国政府は、今回の事業統合に対して独禁法の適用を検討していますが、そうなった経緯については、おもしろい背景があります。

 実は、今回の当事者の一方であるリオ・ティントは、豪英系企業と事業統合の話をする前に、国内企業の中国アルミに鉄鉱石事業を一部譲渡することで合意していたそうなんです。
 ところが、リオは、それを撤回して、BHPとの事業統合に踏み切りました。
 中国アルミに事業譲渡する話を白紙に戻し、豪英系のBHPと統合を結んだことに対し、中国側は強く反発しているそうです。

 そうすると、うがった見方も当然でてきます。
 中国は、国内の企業を育成することを優先して、外資系に対して不平等な法律の適用・運用を行っているのではないか、という憶測です。
 新しく誕生した中国独禁法も、外資を中心に使われる可能性があります。

 このような中国ビジネスの現状を踏まえると、できるだけ中国政府の実情に詳しく、中国政府に対する交渉力の強い法律事務所を利用することも、リスクに対する手当てとして重要かもしれません。