相談内容

 相続法が改正されたようなのですが、今後の相続にどのような影響があるのでしょうか。
 同居している配偶者にできるだけ遺産を相続してもらいたいのですが、今後それはかなうのでしょうか。また、いつの相続から改正法が適用されるのか教えてください。

回答

 今般、平成30年7月6日、相続法が改正され、相続制度が抱えてきた現代的な課題への対処が進められました。

 まず、夫婦で同居してきた不動産について、配偶者の居住権を確保する制度が2種類用意されました。
 「配偶者短期居住権」は、遺産分割を終えるまでの居住権の確保を認める制度です。遺産分割は、財産の量や種類が多い場合、数年必要になる場合があり、長期化することもあります。そのような場合に、配偶者の方が継続して居住ができるように配慮されました。

 「配偶者居住権」は、遺産分割において配偶者居住権という新しい権利の設定を認める制度です。この権利のメリットは、所有権を取得することにより配偶者が取得する不動産評価が高額にならざるを得ない事態を回避し、不動産以外の財産での承継を確保することができます。具体的には預貯金などの現金を確保し、相続後の生活費などを充実させることなどが想定されます。
 20年以上の婚姻関係が必要ですが、居住用の不動産を遺贈又は生前に贈与した場合には、遺産の総額に加えない制度が新設されました。要するに、相続の際の遺産とは別に不動産を譲渡しておくことができるということですので、配偶者に多くの遺産を相続してもらうことができます。

 預貯金について、今までは相続人が単独で銀行からの払い戻しを求めることができませんでした。今回の改正で、これが一部解消され、生活費や葬儀費用、相続債務などの一部の費用のうち、遺産の一定割合の範囲に限って、払い戻しを受けられるようにする制度ができました。また、それでも不足する場合などには、家庭裁判所を通じて仮払いを求めることもできるようになります。
 また、相続紛争ではよくある話として、遺産を管理していた当事者が財産の一部を消費してしまったりするケースがあります。そのような場合、消費した者が得をするようなケースもあり、他の相続人は遺産分割とは別に民事訴訟で返還請求を提起しなければなりませんでしたが、今後は、そのような紛争は遺産分割審判などで一回的に解決できるような制度になりました。

 相続紛争になった際によく主張される遺留分についても、これまでは遺産分割のやり直しに近いような制度でしたが、改正によって、金銭的な解決に一本化され、解決しやすくなると思われます。
 不動産の取得に大きな影響があるのは、「相続させる旨」の遺言による移転が活用されてきましたが、法定相続分を超える部分については登記がない限り、第三者への対抗ができないと変更されました。遺言による登記を速やかに進める必要性が高まったといえるでしょう。

 遺言に関しても自筆証書遺言の作成方式が緩和され、財産目録はパソコンで作成して印刷したものでも足りるようになり、遺言の法務局による保管制度も新設されます。
 その他、相続人以外の者による特別の寄与を評価する制度はありませんでしたが、改正によって、相続人以外による療養看護が行われた場合の金銭請求制度も新設されました。

 配偶者居住権関係と遺言保管制度は2年以内、遺言作成方法の改正は6カ月以内、その他の改正は1年以内に施行される予定です。全体として、配偶者への配慮、長期化しがちな相続紛争の改善などが図られており、今後の相続における課題への対処がなされていると考えられます。