相談内容

 賃貸物件に入居中の賃借人と連絡が取れなくなり、賃料が支払われなくなってしまいました。物件には、奥さんと子どもが引き続き入居している状況ですので、賃料を支払ってもらわなければ困ります。
 しかしながら、奥さんは連帯保証人とはなっておらず、単に同居者とされているにすぎません。奥さんに賃料を支払ってもらうためにはどうすればよいのでしょうか。

回答

 賃貸物件に夫婦やその子どもが住んでいるという家族形態は一般的なものとなっていますが、同居の家族が連帯保証人となっているのではなく、他の家族や保証会社が保証人となっていることが多いでしょう。

 ご相談のような状況では、奥さんとは実際に会うこともでき、賃料を支払う意思も問題ないケースもありますが、賃貸借契約の当事者以外から賃料を受領しても全く問題ないのでしょうか。

 基本的な考え方としては、契約当事者以外の第三者による弁済について、民法474条は、「債務の弁済は、第三者もすることができる。ただし、その債務の性質がこれを許さないとき、又は当事者が反対の意思を表示したときは、この限りではない。」と定めています。原則として、第三者から支払いを受けても構わないが、当事者がこれに反対するとき、相談のケースでは賃借人(夫)が妻に請求しないでくれといってしまうと、この条文に基づいて奥さんからの支払いを受領することはできないということになります。また、この条文は、弁済を受領することは否定していませんが、積極的に無関係の第三者に請求する権利まで認めたものではありません。したがって、この条文だけを根拠に奥さんに賃料の支払いを督促することはできないということになります。なお、第三者弁済の規定については、民法の改正において変更される条文の一つです。債務者の意思に反して支払うことができないという点は同様ですが、第三者から弁済を受けることが、債務者の意思に反すると「知らなかった」ときには、弁済を有効として受領しておくことができるようになります。これまでの規定の場合、受領した当時は、意思に反するか否かわからなかったものについて、後日、反対の意思を示された結果、受領した金銭を返却したうえで、契約当事者からあらためて弁済をしてもらう必要があるなど煩雑であったため、債務者の意思に反すると知らなかった場合には、弁済を有効なものと確定させる旨の改正が行われています。

 第三者弁済では受領できない場合、夫婦が負担する債権債務については、特別な条文が用意されています。民法741条は、「夫婦の一方が日常の家事に関して第三者と法律行為をしたときは、他の一方は、これによって生じた債務について、連帯してその責任を負う。ただし、第三者に対し責任を負わない旨を予告した場合は、この限りではない。」とされています。日常の家事か否かについては、夫婦の財産状況や関係性などを考慮して決定されるため、全てのケースに当てはまるとは言えませんが、同居の夫婦として賃貸借契約を締結する行為は日常の家事の範囲と判断される可能性が高いと考えられます。実際に、古い裁判例ですが、家賃について、日常家事債務と認めて支払いを命じているものもあります。したがって、奥さんに対しては、同居している限りは、賃料の支払い義務を夫と連帯して負担しているものとして、請求することが可能な場合が多いと考えられます。

 なお、契約の解除については、契約当事者に対して行う必要があると考えられていますので、あくまでも奥さんに対しては、支払を継続してもらうにとどまる点と、別居状態に及ぶ夫婦についてまで日常家事債務とは言い切れませんので、夫婦の状況も踏まえた対応が必要となります。