相談内容

 民法改正に応じた標準契約書を国土交通省が公表したと聞きました。
 改正内容を踏まえた内容になっているとのことなのですが、どのような点について変更があったのでしょうか。自社の契約書を見直す際に重点的に確認すべき事項はどのような点になるのでしょうか。
 また、いつまでに、改正民法に対応した契約書で締結するようにしなければならないのでしょうか。

回答

 民法の債権法と呼ばれる部分が改正され、契約関係に適用される基本的なルールが変更となります。これまで利用されてきた賃貸借契約書は、現在の民法のルールを前提として作成されていますので、改正法の影響を受ける部分も生じてきます。変更しなければならないと思いながらも、どこから手を付けたらよいのかわからない方も多いのではないかと思います。

 現時点では、国土交通省が公表している賃貸住宅標準契約書(以下「標準契約書」といいます。)が参考にしやすいでしょう。平成30年3月30日に民法改正を踏まえた再改訂版が公表され、新旧対照表や解説なども同時に公表されました。

 最も重要な変更点は、連帯保証人に関する変更部分です。個人の保証人をつける場合には、極度額の定めがなければ無効となりますので、標準契約書においても、書き損じのないように賃貸条件を記載する頭書部分に設けられています。極度額としてどの程度の上限を設定するかについては、契約当事者の判断に委ねられています。推奨されているのは、金〇万円と明記することや賃料の〇カ月分と記載する方法です。なお、賃料の〇カ月分と記載した場合、のちに賃料が増額された場合に極度額は上がりません(改正民法448条2項)ので、更新の際に賃料を上げる場合、連帯保証人との間でも極度額を変更する必要があります。

 次に、修繕に関する規定が整理されました。一般的な賃貸借契約書では、軽微な修繕であれば借主が修繕を負担する旨が定められるなどありますが、修繕にあたっては、借主が貸主へ通知して、修繕の要否について協議することが定められ、紛争の予防に資するよう工夫されています。

 さらに、賃貸物件の一部滅失した場合には賃料が減額されることが民法に明記されることに伴って、標準契約書の規定では、減額の程度やその期間、必要な事項を協議するものとされています。実務上、実際に減額対象となる範囲はどの程度なのかは、ケースバイケースの判断が必要となるため、その都度協議により定めるほかありません。そこで、紛争予防の観点から、事前協議が定められています。また、協議に資する資料となるよう、国土交通省は「賃料の一部減額参考資料」を公表しました。

 さらに、敷金規定についても若干の修正がなされています。改正民法が定めた敷金については、判例で認められていた内容を追認する内容ですので、大きな変化はありません。不払いが生じた際に、貸主が敷金から充当することは自由ですが、不払いがある借主から充当を求めることができないことが明記されました。

 改正民法が適用されるか否かの分かれ目は、契約締結日となります。改正民法の施行日である2020年4月1日以降に締結する賃貸借契約は、改正を踏まえた内容としておく必要があります。また、契約書を締結しなおして合意更新をする場合には、改正民法が適用されるとも考えられていますので、2020年4月1日以降に合意更新をする場合は、改正民法を踏まえた内容にしておく必要があるでしょう。なお、更新の際に契約書を締結しなおすことなく、借地借家法に基づく法定更新の状態になった場合には、改正前の民法が引き続き適用されることになります。