今回は、従業員の降格についてお話したいと思います。

 降格と一言で言っても、懲戒処分として行うものと、業務命令によって行うものとに整理することができます。

 まずは、懲戒処分としての降格からみていきましょう。

 懲戒処分が有効となるための要件を整理すると、①懲戒処分の根拠規定の存在、②懲戒事由への該当性、③懲戒処分の相当性、となりますので、懲戒処分としての降格もこの要件を充たす必要があります。

 懲戒処分の根拠規定については、一般的には、就業規則に、懲戒の事由と懲戒の手段が定められているものと思います。

 懲戒の事由とは、たとえば、経歴詐称、職務怠慢、業務命令違反等というもので、制裁罰の対象となる企業秩序違反行為のことです。

 この企業秩序違反行為に対して、どのような手段で懲戒処分を行うかが懲戒の手段です。もちろん、懲戒の手段として、「降格」が定められていないと、懲戒処分として降格をすることはできません。

 懲戒の根拠規定があり、懲戒事由該当性が認められても、手段として選択された処分が相当性を欠く場合、つまり重すぎる場合は無効となってしまいます。

 次に、人事権の行使としての降格についてお話ししたいと思います。

 人事権の行使としての降格は、
①降格させる企業組織における管理監督権限や指揮命令権限のラインにおける「役職」や、役職をも含めた企業内の職務遂行上の「職位」を引き下げるものと、
②職能資格制度上の資格や職務・役割等級制度上の等級を低下させるものとに整理することができます。

 会社の人的組織設計は原則として会社の裁量で行うものですから、昇進や降職(上の整理の①)には、原則として会社に裁量が認められます。

 一方で、一度獲得して格付けられた能力が失われることがないなどといった考え方もあり、職能資格制度における降格・降級(上の整理の②)は同様には考えられません。少なくとも、就業規則における定めが必要と考えられます。降格権限を就業規則に定める際には、降格する客観的な基準、審議する機関の設置、弁明の機会の付与、不服申し立ての機会の付与などの規定を設けておくとよいでしょう。