新たな相続人が決まるまで責任

 自分の両親や兄弟などの親族が多額の債務を残して亡くなった場合、相続人が相続放棄をすれば、債務を相続せずに済むことは世間一般にも広く知られるようになっています。しかし、相続放棄をしても思わぬ負担を抱えるリスクがあることをご存知でしょうか。

 民法940条1項は「相続の放棄をした者は、その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産の管理を継続しなければならない」と規定しており、相続を放棄してもその後に他の相続人に相続財産の管理を任せるまで、自らが他の相続人のために相続財産の管理をしなければなりません。

 そして、放棄者が相続財産管理について注意義務を怠り、相続人に損害を与えた場合には損害賠償責任を負うと考えられています。

不動産の場合は事故等の恐れも

 例えば亡くなられた方が家や倉庫など建物を所有していたとします。そうした建物が管理されないまま朽ちて崩壊したり、人が侵入した際に床が崩れたりしたなどの事故が発生した場合、建物を管理する義務を負う放棄者は相続放棄をしたにもかかわらず、民法上の不法行為責任などに基づいて損害を受けた他者に対し損害賠償責任を負うことになってしまう可能性があります。

 亡くなられた方に多額の負債があるようなケースでは他の相続人も同様に相続放棄することが多く、誰が相続人かわからないままとなる場合も考えられるところです。

 しかし、そのまま相続財産を放置していれば上記のような思わぬ負担を抱え込むリスクを負い続けることになります。かといって、建物等を撤去するなど相続財産を無断で処分した場合、相続人が出現した際に損害賠償請求を受ける可能性が残ります。

 こうしたリスクを回避する方法として、管理能力が不十分であることなどを理由に家庭裁判所に審判を申し立て財産管理人を選任してもらうことが考えられます(民法940条2項、918条2項、3項、27条、家事事件手続法201条、別表第一の九十)。財産管理人が選任されれば、放棄者の管理は終了すると考えられていますので、上記のリスクから逃れられると考えられます。