高齢となり、収入が年金のみとなった方が賃貸物件を借りている場合、年金支給日が2ヶ月に一度だから、という理由で、家賃も、年金支給日に2ヶ月分を一度に支払っているという例を見かけます。しかし、これは、賃貸借契約における家賃の支払いが、月に一度、翌月分を支払うという約束(義務)になっている場合には、法的には当該義務の不履行にほかなりません。
一方、生活保護を受給している方が借りている場合には、生活費に困窮して住居費部分も使ってしまい、家賃を支払えないという方を見かけることがあります。しかし、これも、法的には、賃借人が有する賃料支払い義務の不履行にほかならず、生活保護受給者だから、というのは何らの言い訳にもなりません。
もっとも、このような義務の不履行があれば賃貸借契約が解除されてしまうかというと、必ずしもそうではありません。
我が国の不動産賃貸実務において、賃貸借契約を解除して賃借人を退去させるためには、賃借人に義務の不履行があるだけではなく、その義務の不履行が、賃貸借契約という当事者間の信頼関係を前提とする継続的な契約をその後も続けさせることを困難にするものであることが必要とされています(信頼関係破壊の法理)。賃料支払い義務の不履行の場合には、基本的に3ヶ月以上の賃料の滞納がある場合、このような信頼関係の破壊を生じさせる債務の不履行にあたると評価されています。
この点、先の年金の例の場合には、2か月に一度、2ヶ月分の賃料を支払っているわけですから、裁判所が基準としている3ヶ月以上の賃料滞納の状況にはいたらず、信頼関係が破壊されたとまで評価されない可能性があります。
一方、生活保護の例の場合には、徐々に家賃の支払いが遅れていき、結果として賃料の不払いが3ヶ月以上たまってしまった場合には、基本的には、信頼関係の破壊が認められる可能性が高いと考えられます。
いずれの例にせよ、家賃の支払いという義務の不履行が継続されている状況は望ましいものではないため、年金の例の場合は、家賃支払いの約束内容自体を変更する、生活保護の場合であれば、住居費を直接役所から大家さんに支払ってもらう等の手続きをとり、滞納が生じないように気を付けることが重要です。