「コンビニエンスストアで駐車しようとした際、ブレーキとアクセルを踏み間違えて、店内に車が突っ込んだ」
最近、高齢者ドライバーがこのような事故を起こして報道されることが増えてきました。今回は、認知に問題がある高齢者施設の入居者が交通事故を起こした場合、高齢者施設の管理者がどのような責任を負うか、という点について考えていきます。
まず、事故の被害者から、監督責任として損害賠償請求をされることが考えられます。民法713条では、加害者が責任無能力者である場合には、その者は損害賠償責任を負わないとし、714条では、この場合、法定の監督義務者が責任を負うと定めています。
この点、入居者が重度の認知症であった場合には、責任無能力者であるとされる可能性が高いです。
それでは、このような場合に、高齢者施設が監督義務者として法的な責任を負うことはあるのでしょうか。
この点に関し、2016年3月1日の最高裁判決では、「法定の監督義務者に該当しない者であっても、監督義務を引き受けたとみるべき特段の事情が認められる場合には、法定の監督義務者に準ずべき者として、民法714条1項が類推適用される」と判示しました。
これによって、入居者に法定監督義務者がいない場合であっても、具体的な事情によっては、高齢者施設の管理者が「法定の監督義務者に準ずべき者」にあたることになり、入居者の交通事故についての損害賠償責任を負う可能性が広がったと考えられます。
もっとも、高齢者施設が、監督義務を引き受けたといえない場合や、監督義務を尽くしていた場合には損害賠償責任を負いません(714条1項但書)。
したがって高齢者施設の管理者としては、監督義務まで負担しないことを契約上明らかにしたり、入居者が運転免許を持っている場合には、入居期間中は運転をしない旨の誓約書を作成したりするなどして、入居者の運転に関して、より慎重に注意を図る必要があるといえます。