まず、介護施設において直接荷物を預かる場合、荷物を返還する際に本人確認が行われ、荷物自体が介護施設の管理下に置かれるといった点からすれば、寄託契約が成立しており、商法593条から595条の適用があるといわざるを得ません。したがって、寄託された荷物については、責任を免れることが困難な高度な注意義務を負担することになるので、細心の注意を払って荷物の紛失を防ぐことが必要になります。

 一方、入所者が自己の部屋に荷物を置いている場合、これらの荷物をどのように管理するかは個人の自由であり、部屋の中に置いている荷物について寄託契約が成立しているとはいえないと考えられます。

誰の管理下に置かれることになるかが重要

 以上のような分類からすれば、荷物の保管については、誰の管理下に置かれることになるのかという点が重要といえます。もっとも、寄託契約の成立が認められず高度な注意義務までは負担しないとしても、介護施設における管理業務の内容として、盗難等が生じることがないように必要な注意を払っていなかった場合には、損害賠償責任を負担する場合があります。

 例えば、ホテルにおける事案ではありますが、マスターキーの紛失があったにもかかわらず、部屋の鍵の交換を行っていなかったり、紛失したマスターキーが発見されるまで盗難を防止するための措置をとっていなかったりした場合には、顧客が客室内に置いていた荷物の盗難に対する損害賠償責任が認められています(東京地裁昭和46年7月19日)。