回答
居住用の賃貸物件の賃貸借契約においては、賃貸物件やそれに付随して利用する共用部分について、目的物の用法に従って利用する義務を負担しており、用法遵守義務などと呼ばれます。
居住用建物やその共用部分の目的物の用法とはどのようなものかについては、建物の構造や賃料の額、賃貸対象物に含まれる設備などによっても異なりますが、一般的に求められる内容として、建物の価値を毀損しないように利用することや、他の利用者に損害を生じさせないように利用することが求められると考えることができるでしょう。
今回の賃借人は、賃貸物件そのものに関する用法遵守義務の問題と、共用部分の利用に関する用法遵守義務の問題のいずれも生じさせている状況です。
まず、共用部分の利用に関して、自らのごみを放置し、他の居住者にとっても迷惑と感じられている様子です。部屋の中にごみを溜めることも適切とはいえませんが、共用部分への放置はさらに不適切でしょう。しかしながら、法的な用法遵守義務の違反となるためには、具体的な居住者への迷惑が特定されなければならず、たとえば一部の居住者がその廊下を通ることができなくなっていることなどが考えられます。他には、悪臭が生じており、他の居住者にとっての受忍限度を超えているような場合も用法遵守義務違反となる場合があると考えられます。
次に、賃貸物件の利用状況についての用法遵守義務についてですが、外観から把握できる限りでも、あまりきれいに使われている様子ではないとのことです。ただし、まだ概観から判明する限りでしか状況は判明しておらず、掃除等を行っても原状回復が困難であるほどに利用が不適切であるなどといった具体的な状況が判明しているわけではありません。
これらの用法遵守義務違反を原因として、賃貸借契約を解除して退去してもらうためには、賃貸人が用法遵守義務違反の状況を立証しなければならず、その違反の程度が信頼関係の破壊を導くものでなければなりません。この種の事件においては、信頼関係の破壊について、賃貸人が注意や警告を行った回数、賃借人の契約違反行為の回数や態様、具体的な被害の状況(回復困難か否かなど)、賃借人の不誠実な態度などが考慮されます。
ご相談のような状況が生じた場合には、まずは、現状を写真等に撮影したうえで、賃借人へ利用状況の改善に向けた警告を行うとともに、利用状況の調査に応じることを求めることからはじめる必要があるでしょう。
警告に従って、改善されれば良いですが、迷惑をかけていることに対して何も配慮しないような賃借人の場合は、利用状況の調査を重ねる必要があります。賃貸物件に入るためには賃借人の同意がなければならないため、具体的な調査は容易ではありませんが、粘り強く求めたうえで、調査に協力しないことによる信頼関係の破壊といえないかといった点も検討に値します。
ただし、調査に協力する必要性が認められなければ、賃借人が調査に応じないことが不合理であるとはいえないため、調査が必要であると疑われる証拠を収集し、調査を求める理由の合理性を確保しておくべきでしょう。