回答
賃貸物件において火災が発生した場合、状況によっては、入居者による失火の疑いが生じる場合もありますが、今回のご相談内容の場合、物件の瑕疵に原因があるようです。
火災が生じた場合には、ご相談にもあるように、物件は一時的に使用不能になることが一般的です。当然ながら消防活動を行うことになりますので、鎮火するまでは使用できない上、火災の原因を調査するためにも時間を要するということになります。さらに、ススによる汚れなどの洗浄が必要にもなり、汚れがひどければ長期間使用不能となることもありえますし、場合によっては復旧自体が不可能となることもありえます。
今回は、部屋の復旧ができた場合ということになりますが、このような場合に、賃貸人は、責任を負うことになるのか、負担を負うとすればどのような負担が生じてくるのでしょうか。
失火による責任については、「失火ノ責任ニ関スル法律」が存在するため、「重大な過失」が存在しない限り、賠償責任等を負わないとされていますが、これは、契約関係にある当事者間の責任には適用されないと考えられています。そのため、賃貸人は、賃借人と賃貸借契約を締結しており、使用収益可能な状態で賃貸物件を提供する義務があることからすれば、「失火ノ責任ニ関スル法律」の規定は適用されず、火災により物件の提供ができなかった場合と因果関係がある範囲で、損害賠償責任を負担する必要があります。
このような場合に生じる損害としては、相談にもあるように、ホテルや代替物件において居住せざるを得なくなることが一般的ですので、それに伴う損害については、賠償責任を負担する必要があると考えられます。
たとえば、ホテルに宿泊するために必要な宿泊費用を支払わなければならないことに加えて、代替物件に居住せざるを得なくなった期間に相当する賃料の請求もできないと考えられます。今回の場合は、代替物件を賃貸人が用意しているため、当該物件の賃料等との関係は問題となりませんが、代替物件について別途賃料を支払っているような場合には、当該代替物件賃料についても負担せざるを得ないと考えられます。
さらに、賃貸物件内には当然ながら、衣類や家電等も置いているはずでしょうから、それらが損傷した場合には、それに対する賠償責任も負担することになります。この場合、買い換えるための費用を求められることも多いですが、基本的には、失った家電や衣類の価値(購入時期から減価償却した際の残存価値)を賠償することが原則です。新品を買い換える費用まで負担しなければならないわけではありません。
このほか想定される損害としては、宿泊地や代替物件が遠方になった場合に、通常必要となる交通費との差額などが考えられます。
これらの物理的な損害に加えて、精神的な損害に対する慰謝料を考慮することも必要です。たとえば、火災の当時、現場にいたがゆえに、生命または身体に対する危機を感じたとか、ホテルや代替物件における住まいを強いられることによる精神的苦痛などが挙げられます。後者については、賠償義務が生じるほどかということについては疑問がありますが、前者の場合は、慰謝料等の支払い義務を生じさせる原因になるでしょう。