回答

 まずは、現行の民法を前提に回答をいたします。事業用の不動産賃貸借契約においては、代表者個人を連帯保証人とすることを求めることが一般的であり、これまで長く続けられてきました。その際、多くの契約書において「連帯保証人は、賃貸借契約から生じる一切の債務を保証する。」という条項で締結されてきたと思います。
 また、契約締結前の段階であれば、基本的には、両当事者は何も拘束されることなく、条件を提示しあって、条件が合致しない限りは契約を締結しないことは自由でしょう。

 したがって、条件に応じてもらえない限り、契約締結できないと提案することは勿論可能でしょう。ただし、賃貸借契約における保証の範囲が不明瞭であるという指摘は、代表者の方が言うとおりである側面があります。
 なぜなら、賃貸借契約から生じる債務のうち、最も基本的な債務は賃料債務ですが、それ以外にも、原状回復費用や、賃借人の行為による善管注意義務違反に基づく損害賠償請求、極端な例としては、賃貸不動産内において利用者による自殺等が生じて事故物件となってしまった場合の損害賠償請求なども対象となり得るからです。
 このような幅広い債務を負担し得るという状況では、連帯保証人となることに抵抗感が生じることもやむを得ない側面があります。したがって、賃料債務やそれにともなう遅延損害金並びに原状回復費用程度まで連帯保証されれば十分であると考える場合には、契約の成立に向けて連帯保証の範囲を限定することも検討に値するでしょう。

 なお、今期の国会で成立見込みである民法の改正においては、保証に関する規定も改正対象となっています。特に、個人が不特定の債務について保証する内容を含む「個人根保証」と呼ばれる保証については、重要な改正が行われています。個人根保証契約に該当する場合、極度額、すなわち保証の限度額を定めておかなければ、保証契約自体が無効になるという規定が新設されています。
 そして、賃貸借契約の連帯保証人は、典型的な「個人根保証」契約であるため、限度額を定めておかない限り、無効となってしまいます。そのため、ご相談のような事例において、改正民法の施行後は、「賃料の●ヶ月分を限度として」とか「金●円を極度額として」といった定めを置かない限り、保証契約が無効となり、連帯保証債務の履行を求めることができなくなってしまうでしょう。
 なお、近年、広く利用されている、保証会社による保証については、そもそも限度額が定められている例も多いと思われますが、法人との保証契約ですので、改正後も規制の対象外となっています。

 その他、委託を受けた保証人の請求があった場合には、賃貸人は、債務の元本、利息、違約金、損害賠償などについて、不履行の有無や保証人が負担することになる額を回答しなければならなくなります。
 改正民法は、3年程度の周知期間を経てから施行される見込みと報道されていますが、連帯保証に関する契約書の改訂等の対応が必要となる不動産事業者も多いと思われます。
 まだ時間はありますが、今後締結する賃貸借契約においては、民法の改正を踏まえてご相談のような対応を求める連帯保証人も増えてくるかもしれませんので、準備を進めていくべきと思われます。