回答

 賃貸借契約に関しては、ご相談のように、賃借人の方に代わって、第三者が交渉に参加してくる場合があります。この代理人が、例えば、未成年の賃借人の両親や親族であれば、社会生活上の相互扶助的協力行為であり、問題視する必要はないと思われます。

 しかしながら、完全な第三者である不動産会社が、代理人として交渉活動を行うということは、不自然であり、場合によっては、弁護士法に違反する違法な行為となります。

 弁護士法72条は、弁護士以外が、別の法令の規定に基づかず、報酬を得る目的で、他人の法律事務や事件を業として取り扱うことを禁止しています。

 まず、会社自体が営利目的の組織であることや商法により委任事務処理に対しては報酬が発生することなどからすれば、報酬を得る目的があるとされる可能性は高いと思われます。そして、「業として」行うとは、反復継続する意思を有して行うことを意味しているため、不動産会社が、反復継続する意思を有して、賃借人の交渉を代理しているのであれば、弁護士法違反の疑いがあります。

 弁護士法違反に対しては、2年以下の懲役または300万円以下の罰金という刑罰が定められていることから、いわゆる犯罪行為になります。そして、非弁行為となる場合には、非弁行為を原因とする合意などは、公序良俗に反するものとして無効となる場合もあります。

 したがって、非弁行為の疑いがある不動産会社と交渉して合意したとしても、無効となってしまえば、交渉すること自体が無駄に終わりますし、意味がないということになります。

 さらに、誹謗中傷するような書面を配布する行為についても、賃貸人に対する名誉毀損に該当する行為であり、これもまた、3年以下の懲役若しくは禁錮または50万円以下の罰金という刑罰が定められている犯罪行為となります。

 このような行為を行っている代理人は、適切な交渉を行わないおそれがあるうえ、交渉すること自体が無駄に終わるおそれがあることなどからすれば、当該会社を排除して本人と交渉する必要があります。

 まずは、不動産会社が交渉を代理すること自体が非弁行為の疑いがあること及び名誉毀損自体が損害賠償または刑法に違反する行為であることを指摘し、代理人としての交渉を止めさせることが適切でしょう。また、誹謗中傷行為に対しては、名誉を回復するために適切な措置を求めることができるとされていますので、配布した文書の回収や廃棄並びに名誉回復するために必要な措置を取るよう求めることができると考えられます。

 また、弁護士を代理人として委任し、上記のような指摘を行えば、非弁行為を行っているような会社は、代理行為をやめることも多くあります。

 これらの指摘をしても、なお、交渉を継続しようとする場合は、賃料増額の調停を申し立てるなど任意の交渉を打ち切る方がよいと考えられます。裁判所の手続としてしまえば、本人以外の第三者が代理人として参加することはできず、非弁行為を排除することができると考えられます。賃料増額が最終的に可能か否かは、多くの場合、本人の同意が問題となりますので、調停の場においても賃料増額の合意を目指した協議が可能であろうかと思われます。