長時間労働による過労死や精神疾患の罹患が問題となっている昨今において、労働基準法による労働時間と時間外労働の管理は労働者の安全衛生管理の機能を持つようになっています。そのため、会社は労働者の「労働時間」を適切に管理する必要があると考えられますが、社員が時間外労働の結果を事後に報告して残業の申告をする自己申告制による残業管理をしている会社において、必要もないのに会社に居残り、残業時間として申告をする社員がいる場合、会社はどのように対応すべきでしょうか。

 労働基準法上の「労働時間」とは、「労働者が、使用者の指揮命令下にある時間」をいいます。そのため、社員が勝手に会社に居残り、仕事をしていたとしても、それは使用者である会社の指揮命令下になく、労働基準法上の「時間外労働」に該当しないものと考えられます。

 しかし、裁判例によれば、「使用者の明示または黙示の指示により業務に従事する時間」も労働時間に含まれ、使用者の指揮命令は黙示的なものでも足りるとされています。そのため、残業で業務を処理することを上司が容認していたか、知っていながら止めなかった場合、業務が所定労働時間内に終了し得ず、残業が恒常化していた場合等には、黙示の指示により業務に従事していたと認められるものと考えられています。

 なお、社員が残業をしていたにもかかわらず、これを自己の判断で会社に申告していない場合であっても、当該社員に対する割増賃金等の支払い義務が認められる場合があります。