会社には様々な従業員がおり、業務遂行能力が高い者もいれば、低い者もいます。経営者としては、能力が不足している従業員を雇用し続けることによる生産性の低下を避けるため、従業員の解雇を検討しなければならないこともあります。そこで、今回は、能力が不足することを理由とする解雇が許されるかについて検討していきます。
結論を先に述べますと、能力不足を理由として従業員を解雇することは、かなり難しいです。
能力不足を理由とする解雇の有効性判断に際しては、契約の内容及び採用の経緯を考慮し、①能力不足の程度が重大か否か、②会社が指導・教育を行うなど改善を促したか、③解雇回避のための措置を行っていたか、④就業規則に定められた手続きを履践しているかといった事情が考慮されます。
①について、過去の裁判例においては、考課順位が下位10%未満に属する従業員を「労働能率が劣り、向上の見込みがない」として解雇した事案について、「右解雇事由は、極めて限定的に解されなければならないのであって、常に相対的に考課順位の低い者の解雇を許容するものと解することはできない。」等として解雇を無効としたものがあります(東京地判平成11年10月15日)。一方で、飛び込み営業の経験を有し、自ら営業を希望しておきながら、特段経験を有しない新入社員の3分の1弱の粗利しか計上できない等の事情が認められる従業員について、職務遂行能力の欠如は著しい等として、解雇を有効と認めた事例があります(東京地判平成16年9月29日)。
ここから、契約内容や採用経緯にもよりますが、能力不足の程度を重大というには、従業員の中で相対的に下位の順位に属する程度では十分ではなく、能力が著しく劣ることが客観的に明らかであることが重要と考えられます。そして、会社は、解雇の有効性を争われた場合にこの点を裁判所に示すことができるようにしておく必要があります。営業力不足であれば営業成績等が記録として残っているものも多いですが、コミュニケーション力不足や、事務処理能力不足等については、記録として残りにくいものと考えられますので、解雇の際は、能力不足を示す資料があるかについても意識すべきでしょう。
②、③、④についても注意する必要があります。例えば、従業員の能力不足の程度が重大であったとしても、会社が指導を行わずにいきなり解雇する場合には、②改善の機会を与えていないものとして解雇が無効となる可能性があります。また、降格や配置転換による対応が可能であるにも関わらず解雇をした場合には、③解雇回避の措置を行っていないとして解雇が無効となる可能性があります。
解雇は、従業員に与える影響が大きいため、会社は解雇回避の努力をすることが求められています。そのような努力をせずに行う従業員の解雇は、無効と判断される可能性が高いことを念頭に入れておくべきでしょう。