Q:先生。私は今、学生さん(成人)にアパートを貸しているのですが、数か月前、その学生さんとの間で賃貸借契約の合意更新をしました。ところが、更新した後になって、家賃を全然払ってくれなくなったものだから、連帯保証人であるその父親に、家賃を請求したんです。
そうすると、その父親が、「俺は法学部を出ているんだ!」とか言って、変に法律の知識を持ち出してくるんです。というのも、「賃貸借契約が合意更新されたのだから、それに伴い民法619条2項により連帯保証の効力は消滅したから、俺はもう保証人ではない。」とか、「保証人に連絡することなく賃貸借契約を合意更新した上、未払賃料を請求するのは信義則に反する」みたいなことを言って、賃料を支払ってくれないんです。どうしたらよいでしょうか。
A:オーナーさんも、大変ですね。ただ、安心してください。請求することができますよ。
もっとも、①最初の保証契約締結時に、賃貸借契約の更新後については保証人は責任を負わないといった趣旨の明確な合意があるケースや、②賃借人が継続的に賃料の支払を怠っているにもかかわらず、賃貸人が、保証人にその旨を連絡するようなこともなく、いたずらに契約を更新させているようなケースでは、請求が認められない可能性もあります。
今回のケースでは、未払いがあるにもかかわらずいたずらに契約を更新したというようなケースではないので、②は大丈夫でしょう。戻ってから、契約書に①のようなことが書かれていないか確認してみてください。
さらに詳しく
本件と同様の事項について判断した判例として最判平成9年11月13日判タ969号126頁が存在します。同裁判例は、次のように述べて、賃貸人と保証人の「合理的な意思」の解釈として、期間の定めのある建物の賃貸借において、賃借人のために保証人が賃貸人と保証契約を締結した場合には、反対の趣旨をうかがわせるような特段の事情のない限り、保証人が更新後の賃貸借から生ずる賃借人の債務についても保証の責めを負う趣旨で合意したものであると判断しています。特段の事情とは、上の①のような合意があるケースであろうと考えられます。
「建物の賃貸借は、…賃借人が望む限り、更新により賃貸借関係を継続するのが通常であって、賃借人のために保証人となろうとする者にとっても、右のような賃貸借関係の継続は当然予測できるところであり、また、保証における主たる債務が定期的かつ金額の確定した賃料債務を中心とするものであって、保証人の予期しないような保証責任が一挙に発生することはないのが一般であることなどからすれば、賃貸借の期間が満了した後における保証責任について格別の定めがされていない場合であっても、反対の趣旨をうかがわせるような特段の事情のない限り、更新後の賃貸借から生ずる債務についても保証の責めを負う趣旨で保証契約をしたものと解するのが、当事者の通常の合理的意思に合致するというべき。」
もっとも、同判例は、「賃借人が継続的に賃料の支払を怠っているにもかかわらず、賃貸人が、保証人にその旨を連絡するようなこともなく、いたずらに契約を更新させているなどの場合に保証債務の履行を請求することが信義則に反するとして否定されることがあり得る。」と述べていますので、保証債務履行請求権は存在するが信義則上行使することが許されない場合がありうることは注意が必要です。