訪日外国人旅行者が増えるに伴い、ホテル・旅館ではこれまで想定もしていなかったようなトラブルが相次いでいると聞きます。その一つが客室備品・アメニティにまつわるものです。一般的に日本では個包装のバス・トイレタリーアメニティを「アメニティ」と呼んでいます。このアメニティについては持ち帰る宿泊客が多いと思いますが、外国人宿泊客の中には、タオルやドライヤー、果てにはテレビまでアメニティと同じ感覚で持ち帰ろうとする、という話が急増しています。このまま海外へ持ち出してしまったり、宿泊客に問い合わせても開き直ったりして解決が難しいようです。
このようなトラブルを未然に防ぎ、仮に起きても解決する方法はあるのでしょうか。そもそも、アメニティとは何か、どこまで持ち帰って良いのかなど、宿泊客の常識的判断に任せてしまい、明確な基準がないことが問題として挙げられます。
旅館・ホテル等の宿泊に関する契約は、通常、賃貸借契約とは異なり一時的な宿泊の用に適する施設を提供し、宿泊等をさせることが主な内容となっていると考えられます。そして、提供する施設は、ベッドやバスタブ等の付属する設備をはじめ、歯ブラシやティッシュ一枚に至るまで、旅館・ホテル等の所有物であり、サービスの用に提供しているに過ぎない、というのが原則的な考え方です。そして、これらは一時的な使用を許可しているに過ぎませんから、期間が経過すれば「返還」しなければならない、ということになります。
上記を額面通りに受け止めると、全ての客室備品・アメニティは、旅館・ホテル等の所有物であり、これらを無断で持ち帰ること、「アメニティは持ち帰って良い」という概念自体が、違法であり、誤りであることになります。
「アメニティは持ち帰って良い」とは、「例外的」な契約の履行のために提供するサービスの一部として、旅館・ホテル等の所有物を「返還」せずともよく、宿泊客に「移転」することを認めている物に限られるのです。
そのため、旅館・ホテル等は一体何を例外的に宿泊客へ「移転」することを認めているのかが重要になるのです。
具体的には、歯ブラシやクシなどの消耗品においては宿泊に際して消耗することが予定されていることから、実際に滞在中に消耗するか否かに関わらず「移転」を認めている旅館・ホテル等が一般的と考えられます。また特別プランとして一部化粧品等の持ち帰りをサービスとして謳っているケースもあります。いずれにおいても、旅館・ホテル等が「例外的」に認めているものであるため、仮に範囲が明記されていない場合には、持ち帰る側である宿泊客は、持ち帰りを「例外的」に認められていることを立証する必要があります。
以上の法律論のみをもって、宿泊客、特に外国人宿泊客の持ち帰り対策とすることは現実的ではありません。宿泊契約書や約款等において、いかなる範囲において持ち帰りを認めているのか、例えば当該宿泊客のみに使用されることが予定されている消耗品に限定する旨等を明記し、トラブルが生じた場合には提示する準備をすることが、予防法務上は必要と考えられます。
こうした契約書や約款等の記載は、外国人宿泊客の存在も踏まえて英語や中国語等の各種外国語にて用意しておくことも、合わせてお薦めします。