高齢者孤独死問題の対策として、近時、大阪府寝屋川市では、65歳以上の独居高齢者のうち任意の希望者から自宅の鍵を預かり、「緊急時」(外観から安否が疑われる状況がある場合)に限り、応答がなくとも自宅に立ち入って安否を確認する「鍵預かり事業」という対策をとっています。今回は、このような対策の適法性と、同様の行為をする場合の法的な留意点について考えてみましょう。

 他人の宅内に同意なく立ち入る行為は、原則として、刑法上の住居侵入罪に該当する違法な行為として扱われます。この点、「鍵預かり事業」では対象者からの事前の同意がある以上、問題がないようにも思えます。しかし、裁判例では賃貸借契約上、賃貸人側は、緊急時には賃借人の同意なく室内に立ち入りを行なうことができる旨の条項があり、形式上、賃借人は立ち入りを受けることについて事前に同意をしていたとも考えられる中での賃貸借物件への立ち入りの適法性が争われた事案において、裁判所は、この条項は、緊急性ある状況での立ち入りが許されることを確認的に規定したに過ぎないとして、条項独自の意義を否定し、事案に即した適法性判断を行ないました(東京地裁平成24年9月7日判決)。そうすると、「鍵預かり事業」についても、事前の合意があることのみをもって適法ということは困難であると考えられます。

 これに対し裁判例は、「当該行為を行うことが緊急やむを得ないと認められる特別の事情」があれば適法とします。上記平成24年判決の事案においても、①賃借人から突如として5ヶ月もの間賃料が払われなくなり、②その間、賃貸人側は、賃借人宅に7回の訪問と65回もの架電をしたうえ、③うち1回の訪問時には「連絡が取れない場合には安否確認のための立ち入りを行なう」旨予告する内容の書面を玄関ドアに挟んでいたにもかかわらず、賃借人から半年弱もの間一切の応答がされずに2ヶ月が経過した、という状況で、賃貸人側が安否確認のために賃借人の許可なく居室に立ち入った行為を、緊急やむをえない措置であったとして適法と認めています。

 「鍵預かり事業」についても、65歳以上の独居老人という、安否確認を行なう必要性が高度に認められる人物のみを対象としているうえ、事前に立ち入りのみについての同意を得たうえで、安否確認を行なう必要性が認められる「緊急時」に限り立ち入りが行われるという、立ち入り態様にも相当性が認められる非常に限定された状況でのみ立ち入りが行なわれているため、上記裁判例の基準によっても適法と考えることが可能です。

 このように、事前の同意さえあれば行えるというものではなく、具体的な状況下において、その必要性や行為態様の相当性が担保されていなければ適法とは認められないと考えられるため、「鍵預かり事業」と同様の行為を行おうとする場合には留意が必要です。