今回は、誤嚥事故により死亡された利用者に対する慰謝料額について判断を示した裁判例をご紹介したいと思います。

 紹介する裁判例は大阪高裁平成25年5月22日判決です。有料老人ホームの入居者が居室での食事を希望されたので、食堂ではなく居室で食事を提供したところ、入居者が誤嚥してしまい、窒息死したところ、遺族の方が損害賠償請求をしたという事案です。食事の際の見守りが十分でなかった点や、職員の配置が法令の基準を満たしていなかったことに加え、誤嚥のおそれがあると認められていた入居者のそばにナースコールを設置していなかったことなどから事業者の責任が認められています。

 遺族の方々は、入居者の方にとっての損害としてもし生きていれば得られたであろう逸失利益を請求するのではなく、死亡による慰謝料を中心に請求しました。高齢者の場合、逸失利益が高額になることは想定しがたく、請求する損害賠償の内容も慰謝料が中心となる傾向にありますが、死亡慰謝料として請求した額は1500万円と高額でした。

 事業主は、遺族の方からは誤嚥に関する申し送りなどがなく、配慮することが困難であったことなどを理由に、過失相殺により賠償額が減額されるべきであることなどを主張しましたが、裁判所は遺族の過失とまでは認めませんでした。

 そして、慰謝料額としては、亡くなられた本人の死亡慰謝料として1000万円が認められました。死亡慰謝料について、交通事故の場合は、2000万円程度の金額が認められることが多いことと比較すると若干低い額にはなっているものの、事業主にとって高額であることに変わりはないと思います。1000万円の慰謝料と判断したの理由としては、ご本人の希望で居室での食事を実現したこと、誤嚥についての申し出がなされていなかったことは過失とまでは言えないが減額事由にはなりうること、年齢や病状などが挙げられています。

 誤嚥事故は、高齢者介護において非常に危険かつ頻度も高い事故の一つであり、これを防止する施策をとっておくことは必須といえます。今回紹介した事案では、やはり法令上の職員配置については言及されているうえ、ナースコールの設置位置なども重要とされています。食事の際に、入居者の希望をかなえて居室での食事を実施したわけですが、ナースコールがなく見回りも十分でなかったことから事業主の責任が認められてしまっており、入居者の希望を聞くとしても、事故に対する配慮が可能か否かは検討する必要があるでしょう。