食品業界において、創意工夫して発見した特定の料理の作り方(レシピ)は、自社だけで使用していきたいと考える企業も多いことでしょう。では、わが国においてレシピはどのような法的保護を受けられるのでしょうか。

 まず、レシピも文字として残せる以上、著作権が発生すると考える方は多いと思います。しかし、特定の料理を特定の味で作るための材料や調味料の比率といったアイデア自体及びその記載については、著作権は発生しないものと考えられます。なぜなら、著作権は「創作的」な「表現」について発生するところ、アイデアそのものは外部に「表現」されたものではなく、また、仮に文字等により外部に表現したとしても、料理の作り方は、そのアイデアに基づく記載(例えば「肉○グラム、塩△グラム・・・」という記載)であれば、誰が書いても類似の内容となるため「創作的な」表現には当たらないと考えられるからです。

 一方、アイデアを実現する方法が「発明」(自然法則を利用した技術的思想の創作のうち、高度なもの)にいたる程度にまで創造性を有している場合には、特許権が発生する可能性があります。特定の食べ物を製造する方法は、特許権の発生対象である「物の製造方法」に該当すると考えられるからです。例えば、わが国においても「風味に優れたフレッシュチーズの製造方法」といった食べ物の製造方法について特許権の発生が認められています(特開2012‐40017)。

 ただし、特許権を発生させるためには特定の手続を経なければならず、その結果、当該製造方法は、公報に掲載されて一般的に公開されることになります。特許権は、その存続期間中は他者による無許諾の実施を差し止めることさえできる強力な権利ではありますが、個人あるいは小規模に実施する者に対して差止めを求めていくのは現実的ではない一方、家庭単位で実施することが可能なレシピの保護方法としてはあまり適切ではないと考えられます。

 そこで、レシピの秘密性を保ちつつ、他者に利用されることを防ぐ方法として、当該レシピが自社の「営業秘密」にあたることを根拠として、不正競争防止法に基づき、レシピを不正に取得・使用・開示する者に対し事後的に差止めを求めていくという方法が考えられます。

 この点、「営業秘密」にあたるためには、当該情報が

① 秘密として管理されていること
② 事業活動に有用な情報であること
③ 公然と知られていないこと

の3つの要件を充足する必要があるとされていますが、①及び②については、主観的のみならず、客観的にも、秘密として管理されており、また、事業活動にとって有用な情報であると評価できることが必要になるとされています。なお、要件①を充足するための典型的な措置としては、営業秘密となる資料に「○秘(マル秘)」表示をすることや、データについてパスワードを設定しておくことなどが挙げられます。

 レシピの法的保護としては以上のような方法が考えられますが、不正競争防止法に基づく差止請求の場合であっても、強制的な権利の実現を図るためには、公開の法廷の場で自らが保有する情報が営業秘密にあたることを主張しなければならず、結局は特許権の場合と同様の問題が生じてしまいます。

 そのため、現在の我が国において有用なレシピを独占的に使用していくためには、厳に秘密として管理し、事実として情報が漏えいしないように配慮することが、最大の方策になるといえるのかもしれません。