高齢者介護施設や訪問介護の現場では、介護作業等を行う職員が腰痛を訴えるケースが多くあります。重量の負荷、姿勢の固定、前屈等の姿勢で行う作業等を繰り返すことにより、腰部に過重な負担が加わることが大きな要因であることが指摘されていますが、中には腰痛が悪化して、介護職員としての勤務が難しくなるケースも存在します。

 その場合、会社としては、腰痛を患った介護職員を内勤の事務職等に配置転換すればよい、と思うかもしれません。

 しかし、法律上、配置転換は無限定に認められるものではなく、たとえば「介護専門員」などと職種を限定して採用した労働者である場合や、勤務場所を「介護を行う現場のみ」と限定して採用した労働者である場合等には、会社は労働契約で定められた内容を遵守する必要があることから、原則として、労働者の個別の同意がなければ配置転換はできないとする見解が一般的です。

 では、「介護専門員」などの名称で採用した労働者が、腰痛のために職務を行えなくなった場合、本人の同意なくして配置転換をすることは全くできないのでしょうか。裁判例の中には、放送局がアナウンサーとして雇用した者を他職種へ配置転換した事例において、就業規則に「業務の都合により職種の変更を命ずることがある」旨の定めがされており、就業規則上アナウンサーと他の社員との区別がされておらず、アナウンサーとして入社した者でもある時期に他の職務に変わって引き続き会社の職員として勤務するのが通常であること等に鑑みて、職務内容の変更をなしうると判断したものがあります(宮崎地裁昭和51年8月20日判決)。他方で、病院が臨床検査技師等として雇用された者たちを種々の事務職へ配置転換した事例において、就業規則中に「配置換移動」と題して、「業務上必要あるときに、職種の変更等をさせることがある」旨の規定があったとしても、職種が限定されたうえで採用されたという認定を妨げるものではないとし、「一方的に職種の変更を命ずる本件各配転命令は法律上の根拠を欠く」等と判断したものもあります(福岡地裁昭和58年2月24日)。

 以上のように、労働者の同意なく配置転換を行う場合、まずは職種等を限定して労働契約を締結していないかについて留意する必要があります。そして、職種等の限定をして労働契約を締結したか否かを判断するには、就業規則の定め等、労働契約の内容を個別具体的に検討する必要が生じます。配置転換を検討する際は、弁護士等の専門家に相談するなどして慎重に行うべきことに留意が必要といえます。