今回は、従業員(労働者)のハラスメント行為について、会社(使用者)に生じる責任を考えていきます。

 会社が従業員のハラスメント行為に対して責任を負うか否かについては、①会社が日頃からハラスメント防止措置を行っているか(事前予防)、②ハラスメントが発生した場合に会社がどのように対応するか(事後対応)という点が重要となります。

 まず、①事前予防について参考となる裁判例をご紹介いたします。

 職場の懇親会後の2次会において、上司が部下に対し、唇にキスするなどのセクハラ行為をした事案です。

 裁判所は、本件が問題になる以前には、使用者においてセクハラ行為を防止する組織的な措置が行われておらず、日ごろから同措置が行われていれば本件セクハラが防止できた可能性が高いといえることから、使用者が職場環境維持・調整義務を懈怠したとして、損害賠償責任を認めました。

 裁判例からは、会社全体で組織的なハラスメント防止対策を講じることが重要であることがうかがえます。

 防止策の例としては、就業規則にハラスメント防止規定を設けること、当該就業規則の規定を実効性あるものとするために研修を実施すること、被害者のための相談窓口を設けるといった措置が考えられます。

 次に、②事後対応について示した裁判例をご紹介します。

 国立病院に勤務している上司が部下である女性の胸を触る等のセクハラをし、これを女性が拒絶したところ、報復として意図的に無視し、仕事の指示を与えない等のいじめを行った事案です。この際、病院は、上司に対し口頭で厳重注意を行い、以後毎月業務連絡会を設けるなどの対応を行いました。

 これについて裁判所は、病院は上司の職務上の言動に対し、一定の措置を講じているが、性的嫌がらせについては事実の確定が困難であるとして特別の措置をとらず、いじめ問題についても原告個人に向けられた不利益として直接対処しなかった結果、原告をとりまく職場環境は、特段の改善がなかったとし、使用者である国の損害賠償責任を認めました。

 かかる裁判例によれば、従業員からハラスメントの申告があった場合には、会社は、事態を把握するための調査を行うべきといえます。ハラスメントの申告は、被害者の職場への配慮から、直ちになされることなく被害が深刻化している場合が多いため、会社の調査は可能な限り早急に行われるべきです。その際には、周囲の人物からも事情を聴取することにより、正確に事実を調査することが求められます。

 そして、ハラスメントの事実が明らかになった場合には、事案に応じて、両者の話合いを促すことや、加害者に口頭で注意するのみではなく、配転命令や、懲戒処分等の措置を行うことにより、被害者の職場環境を実際に改善させなければ、会社が従業員に対して負担している安全配慮義務を尽くしたとは評価されないことに留意すべきでしょう。