1 総論
刑法36条1項は「急迫不正の侵害に対して、自己又は他人の権利を防衛するため、やむを得ずにした行為は、罰しない」と規定しています。正当防衛が成立する場合に不可罰となるのは、構成要件に該当する行為があったとしても当該行為の違法性が阻却されるためです。以下では、正当防衛の成立要件について説明したいと思います。
2 急迫不正の侵害
「急迫」とは、法益侵害が現に存在しているか、または間近に押し迫っていることを意味します(最判昭46.11.16)。侵害があらかじめ予期されていたとしても、そのことから直ちに急迫性が失われるものではありませんが、その機会を利用して積極的に相手に対して加害行為をする意思(積極的加害意思)で侵害に臨んだときは、もはや急迫性の要件を満たさないとされています(最決昭52.7.21)。
「不正の侵害」とは、実質的違法性を備えた侵害を意味します。したがって、違法性が阻却される正当防衛行為に対しては正当防衛で対抗することはできません。
3 自己又は他人の権利
刑法36条1項は「自己又は他人の権利を防衛するため」の正当防衛を認めていますので、侵害を受ける者自身による防衛行為(自己防衛)に加えて、侵害を受けるもの以外の者による防衛行為(緊急救助)についても、正当防衛の成立が認められます。