1 建物明渡し4ヶ月スキーム

 弁護士法人ALGでは、家賃保証会社からの建物明渡訴訟の依頼が多いのですが、うちは、日本で初めて、「4ヶ月スキーム」を確立した法律事務所です。

 ”4ヶ月”とは、訴訟期間が4ヶ月ではありません。

 ご依頼から明渡しの執行までが、最短4ヶ月です。

 事案の個別性がありますので、全ての案件で4ヶ月とは言えませんが、賃借人が争ってこないケース(多くの場合は、このような事案です)では、最短4ヶ月で明渡しが完了できるように、スキームを確立しました。

 製造業の作業工程管理をヒントにして、ご依頼から執行までの作業工程を分析し、ボトルネックを排除して最短の工程を作ったのです。

 なぜこのようなことをしたのかというと、事件処理のスピードは、建物明渡訴訟の重要なクオリティーだと考えたからです。
 賃貸物件は言うまでもなく、”投資物件”です。したがって、利回りがその収益性を決定します。

 ということは、賃料不払いによってその利回りが著しく低下しているわけですから、その利回りを回復するには、速やかな明渡しを実現し、契約関係を正常化しなければなりません。  このような問題意識から、「スピードは質である」という信念の下、このようなスキームを構築したのです。

 お陰様で、毎月、たくさんの建物明渡案件のお仕事をいただくようになりました。

 そして、今ではこれが弁護士業界の”業界標準”となり、最短4ヶ月が普通になりました。

2 賃料不払いと契約の解除

 しかし、ここで大きな問題があったのです。

 昔とは違って、今では賃貸物件の多くは、家賃の保証会社が保証人となっている物件なんです。

 従来は、保証人というと、大概は親・兄弟などの親族がなっていました。
 そして、賃借人本人が賃料の不払いを起こしても、親などの保証人が立て替え払いをすれば、契約は解除されず、賃借人はその賃貸物件に住み続けることができたんです。
 貸し主は、保証人に立て替え払いをしてもらっているから、満足しているわけです。

 このような場合には、賃料不払いがあったとしても、賃貸人と賃借人の信頼関係は破壊されていない、と評価して、契約解除はできないというのが古くからの判例理論でした(これを「信頼関係破壊理論」と言います)。

 しかし、親・兄弟ではなく、保証会社が家賃の立て替え払いをしているケースまで、この理屈で処理されると困ります。賃借人は賃料を払わずに住み続けることができることになり、保証会社は、賃料の立て替え払いの継続を余儀なくされるからです。

 そこで、我々は、従来の信頼関係破壊理論は、保証会社が保証人となっている場合には適用がないとして、これまで裁判で戦ってきました。

 なぜ、戦う必要があったのかというと、多くの弁護士や下級審の裁判官などが、従来の理論通り、「契約解除はできない」という見解を支持していたからです。

 大手の某保証会社(うちのクライアントではありません)は、その顧問弁護士のアドバイスにしたがって、自らの賃貸保証サービスの内容まで変更してしまったそうです。
 つまり、賃料の不払いがあっても何ヶ月かは立て替え払いをしない、という保証スキームです。こうすれば、賃料も不払い、立て替え払いもない、ということで、信頼関係破壊理論により、契約解除が可能となるからです。
 長年、このスキームで対応してきた大手保証会社もあるんです。

 でも、我々は、そのような法解釈論に強い疑問を持ち、裁判所と戦ってきたんです。

 その我々の主張がようやく実り、2013年11月22日、大阪高裁が賃貸借契約解除を認める判決を言い渡したのです。

 賃借人側の弁護士さんは、迷わず最高裁へ上告しました。  それはそうでしょう。従来の判例理論からすれば、賃借人が勝つのが当たり前ですから。

 ところが、2014年6月26日、最高裁は、その上告を棄却したのです。

 これで、判例としては確定しました。

 今後の実務は、「保証会社による立替払いは、賃借人の賃料不払いの瑕疵を治癒しない」という考え方が業界標準となり、多くの保証会社も弁護士もこれに従うことになるはずです。

 弁護士は、法律の評論家であってはいけません。

 クライアントの利益を最大化するため、従来の判例理論が不合理だと考えられる場合には、これに挑む姿勢が必要だと考えます。

 今後も新しい業界標準を創造すべく、弁護士・所員一同頑張りたいと思います。