公設事務所とは、弁護士会が開設した法律事務所です。
弁護士会が開設するわけですから、事務所の開設資金は弁護士会から出ています。もちろん、その資金は我々の会費です。
公設事務所の場合は、公設であることが分かるように、法律事務所の名称に、”パブリック”という言葉が入っています。
東京にも、ボクが知る限り、東京パブリック法律事務所(池袋)、渋谷パブリック法律事務所(渋谷)、北千住パブリック法律事務所(北千住)、多摩パブリック法律事務所(立川)と4つもあります。
いわゆる弁護士過疎地にも公設事務所が設置される場合がありますが、東京は当然ですが、弁護士人口が溢れており、飽和状態ですから過疎地ではありません。東京のような大都市に4つも弁護士会創設の公設事務所があるんですね。
なぜ東京のような、弁護士飽和状態の大都市にこんなに公設事務所が開設されたのかというと、経済的な理由(要するに、お金がない)で普通の法律事務所に依頼できない人を救済するためだそうです。
しかし、この公設事務所、ボクに言わせれば、非常に問題があります。
第1に、東京都では、弁護士の過当競争により、ダンピングが加速しており、多くの法律事務所が法律相談原則無料とし、完全成功報酬型の事務所も増えてきました。
公設事務所がないと、経済的に裕福でない人の弁護士アクセス障害が出てくるというのは、極めて怪しい話です。
第2に、公設事務所は、本当に貧しい人だけの依頼を受けているのか、依頼者の資力を厳格にチェックしているのかも疑問です。
以前ボクは、2回、公設事務所系の弁護士さんと交渉で当たったことがあったのですが、ボクの依頼者は、家事事件の妻側、労働事件の労働者側でした。家事事件では、相手方である夫のほうが経済力があり、ボクは財産分与を求めていました。労働事件は当然ですが、ボクの依頼者のほうが弱者です。経済力がある夫側、会社側でなぜ公設事務所の弁護士さんが代理人として登場するのか疑問でした。
第3に、公設事務所では、黒字経営でも問題があるし、赤字経営でも問題があります。黒字経営だった場合、なぜ公設事務所が黒字経営を実現できるのか聴いてみたいです。多くの法律事務所が過当競争の中で弁護士費用をダンピングしており、なかなか利益を出しにくくなっています。それなのに、もし公設事務所が黒字ならば、多分、それなりの弁護士報酬を取っているはずです。しかも、弁護士会が開設したというブランド力と信頼を使って、一般の法律事務所よりも競争優位性をもっています。
また、仮に赤字経営であれば、今度は逆に赤字を補填しなければならなくなりますが、そのお金はどこから捻出されるのかというと、ボクらが支払っている弁護士会費です。
第4に、多くの弁護士が厳しい競争の中で、事務所を発展させられず細々と事務所経営を強いられております。事務所の運転資金に充てるため、顧客の預かり金を横領し逮捕された弁護士も増えています。
それなのに、公設事務所系は、最初から、10名程度の”中規模法律事務所”として、事務所経営を開始できます。その結果、顧客に安心感を与えることができ、しかもスケールメリット(規模の経済性)も活かせるので、競争上有利です。1人で事務所を運営し大変なご苦労をされている弁護士さんが増えているのに、こんなことで良いのでしょうか。
ということで、ボクは、公設事務所の存在意義と社会的必要性に関して大いに疑問があるのですが、残念ながらこれを廃止しようという運動にはつながりません。
なぜかというと、多くの弁護士にとって、公設事務所が廃止されたからといって、自分の事務所の収益やお客さんが増えるとは限らないからです。弁護士人口の激増による経営難のほうが真相に近いと思いますから、公設事務所の問題を自分たちの問題として捉えられないのだと思います。
また、これらの公設事務所の存在は、一部の弁護士やそこで働く人たちの既得権益にもなっています。もし、公設事務所を廃止するということになると、当然ですが、そこで仕事をしている弁護士さんや従業員の人たちは職を失います。だから、もし本気で廃止しようとすれば、強い抵抗に遭うのは必定です。
このように、多くの弁護士にとって、公設事務所の廃止は直接的に自分たちの利益にならないのに対して、逆に利害関係者の激しい抵抗に直面するはずですので、誰も「廃止しよう」とは言わないわけです。
でも、ボクは、前述のような矛盾に満ちた公設事務所は直ちに廃止するべきだと思っています。
これから弁護士としてこの厳しい環境の中で頑張っていかなければならない若手の弁護士さんこそ、もっと声を上げるべきだと思います。