一部報道によると、熊本地震の被災地では、ペットを飼育する被災者が、そのペットの扱いをめぐってトラブルとなり避難所を追われるケースが相次いでいるとのことです。「うちの子はイヌだけど家族同然なんだ!」という人の切実な感情はとってもよく分かりますし、一方で「人が生きていくだけで精一杯な中、ペットまではちょっと・・」という気持ちもやはり理解に難くありません。どちらか一方が正しいとか正しくないとかではなく、様々な人が持っているそれぞれの価値観が狭い避難所でぶつかり合う以上、大小問わず衝突はどうしても避けられないもの。これを何とか解決に導く現場知やノウハウ、いわゆるメディエーションが、今まさに被災地で求められる状況にあるのだろうと推察します。
 私自身、ペットに関してはある程度寛容なつもりですが、いざ自ら被災して避難所に行ったところ隣の避難者がヘビとかカメレオンを放し飼いにしていたら、平然と過ごせる自信はちょっとありません。

 このような極限状態における問題はさておくとしても、ペットをめぐる法的なトラブルは、意外と日常茶飯的に存在するものです。特に多いのは、マンションでのペットトラブル。賃貸借契約が終了して入居者が退去した後に室内をチェックしたら、禁止しているはずのペットのニオイがした・・とか、夜中に隣家からペットの鳴き声が響いてうるさいから止めさせて欲しい・・など、その内容はまさに千差万別です。特に、分譲マンションにおいて、管理規約でペット飼育を禁止しているにもかかわらず区分所有者が飼育をやめようとしない、といったケースでは、入居者間で対立が激化し、訴訟化してしまうような案件も少なくないのが実情です。

 このように、ペット禁止の管理規約が定められている分譲マンションで入居者がペット飼育をしていることが判明した場合、飼育をやめさせるよう法的な請求をすることができるのでしょうか。
 この点、過去の裁判例を調べてみると、当初から管理規約においてペット飼育が禁じられているケースでは「飼育をしてはならない。」という判決が下されているものが散見される一方で、入居者間のトラブルが発展して事後的にペットに関する規約を設けたような事案では、ペット飼育の差し止めは認められない傾向にあるようです。
 他方、賃貸マンションでペット飼育が許可されていない場合には、上記と同様、飼育の差し止めが認められる可能性があるほか、重大な契約違反として賃貸借契約の解除ができるケースが多いと言えます。賃貸借契約は賃貸人の許容する範囲でのみ使用収益が許されるものである以上、用法違反があれば契約自体を破棄することもやむを得ないとの価値判断がなされるためです。

 集合住宅をめぐるペットトラブル以外にも、最近ペットにまつわる法律相談が増えてきています。先日はペットの医療過誤に関する相談のために来所された方がいらっしゃいました。交通事故によりペットがひかれて亡くなった、という話もよく聞くところです。
 不法行為によってペットの命が失われたとしても、多くの場合、裁判上認められる損害賠償額は極めて少額にとどまります。いかにペットが家族として大切な存在であったとしても、残念ながら法律上は「物」としての扱いしか受けられないのが訴訟実務の現状なのです。

 ペットは、漢字にすると「愛玩動物」。飼い主がたっぷりと愛情を注ぎ、大切に育ててきた「我が子」だけに、飼い主以外の人との間で感情的な対立につながることも少なくありません。そのような紛争であっても、糸をときほぐして解決へと導くのが私たち法律家の仕事。問題がこじれてしまう前に、お気軽に法律事務所の戸を叩いてみてくださいね。