こんにちは。
 相続が発生すると、対象となる相続財産の金額も多額になりやすい傾向にあることから、仲の良い家族であっても、しばしば紛争が生じかねないものです。
 自分の死後、家族内で紛争が生じるのだけは避けたい。
 そのように考える方が利用されるのが、遺言です。

 そのように考えて遺言を作成すべく、弊所にご相談される方も多いのですが、ご相談に際して、遺言が作成できるか微妙なケースもあります。

 それは、遺言者(本人)が、認知症等に罹患している場合です。
 このようなご相談に来られる方というのは、本人が認知症である以上必然的に被相続人の家族の方ということになるのですが、被相続人が認知症等に罹患している場合、遺言が作成できない可能性があります。 

 遺言を作成できるのは、満15歳以上であるとともに、意思能力を有する必要があり、これを併せて遺言能力と呼びます。

 意思能力とは、事理を弁識する能力、簡単に言えば、自らの行動によりどのような結果が発生するか等、ものごとを一人で主体的に判断できる能力のことです。
 たとえば、まだ2、3歳程度の幼児は自分の行動や結果等が判断できず、親等にサポートしてもらえなければ何もできないような状態にありますが、このような判断ができない状態のことを、意思能力を欠くといいます。

 そして、遺言の場面でこのような能力を欠くものの代表的なものとしては、認知症等に罹患している方です。

 そうすると、認知症等に罹患している場合には、原則として、遺言を作成することができなくなります。

 ところが、このような相談はよく見られます。
 それはなぜでしょうか。
 遺言者のご家族に尋ねてみると、単純にご家族が後々の紛争を防止したいという要望を持っているのみで、本人の意思が介在していない場合もありますが、本人が認知症等に罹患していると診断されたが、認知症としては早期の段階で、たまにきちんとした判断を下せるときがあり、そのときに、自らの相続により家族に気苦労をかけたくないと本人が言っていた、という場合もあるのです。

 そのような場合に、利用を検討すべきなのは、医師の立会いの下に遺言を作成する方法です。
 すなわち、意思能力が回復している状態であれば意思能力があるところ、後々当該事実が争われた場合には、意思能力が回復していた状態であるということを証拠をもって証明しなくてはなりません。
 その際に有用なのが、医師の立会いの下、判断能力のテスト(代表例として「長谷川式知能評価スケール」があります。)を行ってもらうことであり、遺言能力が争われた場合には、当該結果をもとに立証活動を行っていくことになります。
 また、意思能力が回復していたといっても、程度があるため、遺言に至った経緯や、遺言の内容(簡易なもののほうが認められやすい)等についても判断材料となることから、証拠として残しておく必要があります。

 また、医師の立会いについては、成年被後見人に関しては特別な規定が存在しており、成年被後見人が事理弁識できる能力(意思能力)を一時的に回復した場合には医師二人以上の立会いのもとで、遺言をすることができます。

 いずれにせよ、遺言の作成に際しては、本人の意思が介在していることが何よりも重要ですので、本人の意思がない状態では遺言を作成することはできませんので、ご留意ください。

弁護士 中村 圭佑