はじめに

 生徒が誤って他の生徒にけがを負わせてしまった場合、けがを負わせてしまった生徒はけがを負った生徒に対し、損害賠償責任を負うことになります。
 他方で、部活動も学校で行われる教育活動の一環ですので、部活動の練習中はもちろん、部活動の一環として行われている練習前の掃除等の際にも、何らかの事故が起こる危険性が当然に予測されていた場合には、そのような事故が発生しないように指導監督すべき義務を学校側は負っていたということができます。
 本稿では、学校側の指導監督責任が問われるべき場合について検討していきます。

学校側の責任を追及する際に、ポイントとなる点

 部活動前のふざけ合いでけがをしてしまった場合に、学校に対し損害賠償請求をする際、ポイントは、以下の2点です。

①学校側はどのような義務を負っているのか。
②学校側は①の義務に違反したのか。

参考となる判例

 上記ポイントについて判断した裁判例について御紹介致します。

横浜地方裁判所平成13年3月13日判決

〇事案

 私立高校の柔道部員が、部活の練習前に練習場の清掃をしていた際、先輩部員からプロレス技をかけられて重傷を負い、後遺障害を負いました。被害生徒側は、加害生徒に対しては不法行為に基づく損害賠償請求を、私立高校側に対しては在学契約に基づく安全配慮義務違反による債務不履行又は損害賠償請求をしました。これに対し、私立高校側は、事故が発生した時刻は正規の部活動の練習が始まる前であり、学校及び指導担当教員の指揮監督命令下になかった等と反論しました。

〇判旨

ポイント①~学校側はどんな義務を負っているのか~についての判断

 高校の管理者である校長や部活動の顧問教諭は、教育活動の一環として行われる部活動に参加する生徒の安全を図り、特に、何らかの事故発生の危険性を具体的に予見することが可能であるような場合には、事故の発生を未然に防止するために監視、指導を強化する等の適切な措置を講じるべき安全保護義務がある。

 そして、柔道部における部活動は、その性質上、格技である柔道を修得しようとして柔道部に所属する部員が、畳、マット等により、格技修得のための設備が整っている部室に集合し、格技の練習を行うのであるから、指定された練習時間の前後の時間帯に、慣行として顧問の教諭の指示によって行われることになっている部室及び格技修得のための設備の清掃(本件清掃)等の行為もここにいう部活動に含まれるというべきである。

 教諭自身が危険であるから禁止すべきであると認識するプロレスごっこが複数の柔道部員によって練習時間の前後に行われ、本件事故当時もほぼ毎日のように行われていたのであるから、このような柔道部における部活動の状態は、柔道部員の心身に影響する何らかの事故発生の危険性を具体的に予見することが可能な場合に当たり、学校及び顧問教諭としては、本件事故の発生を未然に防止するために監視、指導を強化する等の適切な措置を講じるべき義務があったというべきである。

ポイント②学校側は①の義務に違反したのか。

 学校及び顧問教諭は、プロレスごっこが練習時間の前後の時間帯(前記のとおり部活動の一部と認められる。)に前記のとおりの態様で行われていた実態を認識、把握せず、柔道部員に対し、練習時間帯の前後にプロレス技などの格技の技をふざけて掛ける行為の危険性について指摘し、一律に厳しくこれを禁止したり、見回りを強化するなどの対策を講じる措置を取ったことはなかったのであるから、これらの点について、学校には、被害生徒に対する安全保護義務違反があったというべきである。

コメント

 上記裁判例は、部活動の練習前の清掃が、部活動の練習の前に当然に行われるもので、部活動の練習と一体となるものと評価して、清掃時間帯も学校側が指導監督すべき時間帯であると評価したといえます。

 学校としては、危険性の高いプロレスごっこがされていたことを容易に把握することができた以上、漫然と放置するのではなく、そのような事故の発生を防止するよう指導監督すべきであったと言えますので、裁判所の判断は妥当なものといえましょう。

 学校側が自身の監督義務違反を棚上げにして、生徒だけの責任に済ませようとすることも珍しいことではございません。お力になれることも多いかと存じます、是非一度ご相談ください。