「危険ドラッグ」を吸って、正常な運転ができない状態でタクシーを運転したとして、タクシードライバー(当時)が道交法違反で逮捕される事件が発生しました。

 使用者による対策としては、講習会による啓発などの他に、従業員の所持品検査が考えられます。しかし、所持品検査は、人権侵害を伴うおそれが大きいものです。それでは、使用者が、所持品検査を行うことは可能なのでしょうか。

 この点、判例(最高裁昭和43年8月2日判決)は、私鉄の使用者が、「社員が業務の正常な秩序維持のためその所持品の検査を求められたときは、これを拒んではならない」との就業規則の条項に基づき、靴の中の検査を実施しようとしたところ、被検査者の一人が靴を脱ぐことを拒否したことから、懲戒解雇したという事案において、①検査を必要とする合理的理由の存在、②検査の方法が一般的に妥当な方法及び程度で行われること、③制度として職場従業員に対し画一的に実施されるものであること、④就業規則その他明示の根拠に基づくことを要件として、所持品検査に対する従業員の受忍義務を認め、懲戒解雇を適法と判断しています。

 本判例の事案では、従業員の金品の不正隠匿の摘発・防止が目的でしたが、薬物使用防止のための所持品検査も本判例の判断枠組みに従って判断されることになると思われます。それでは、「危険ドラッグ」の所持品検査をする際には、どのようなことに注意するべきでしょうか。

 第一に、要件①に関して、薬物使用防止を目的とした所持品検査は、人命にもかかわることですから合理的理由はあるといえると考えられます。

 第二に、要件②に関して、肉体に直接触れる、下着姿にさせるといった方法での検査は、妥当な方法とはいえないおそれがあり、裁判例でも、「身体」検査を伴う所持品検査は違法とされる傾向にあります。そのため、所持品検査を行う場合は、従業員の名誉やプライバシー等に最大限の配慮を図る必要があると考えられます。

 第三に、要件③に関して、疑わしい者に対してのみ狙い撃ち的に検査を行うことは画一的ではないとされる可能性があるため、全員に一律に行う必要があります。

 最後に、要件④に関して、就業規則その他明示の根拠規定が存在しないにもかかわらず、所持品検査を行ったことが違法であるとして、従業員からの慰謝料請求が認められた裁判例があります(浦和地裁平成3年11月22日判決)。所持品検査をする場合は、必ずあらかじめ就業規則等の条項を作成しておく必要があります。

 なお、所持品検査が適法であったとしても、懲戒処分が過酷に過ぎる場合は、懲戒権の濫用として当該処分が無効になる可能性もありますので、懲戒処分が相当かどうかについても注意をする必要があります。