近年では、老人ホーム等の介護施設において、従業員と不適切な契約方法をとっていた事案についての裁判例がありましたのでご紹介いたします。
事案としては、老人ホームにおいて、24時間住み込みで要介護者(要介護度4)の方の世話をするというサービスを提供し、介護を担当する方との間では明確な労働契約を締結することなく、職業紹介という形式で介護への従事を求めていたというものです。
老人ホームの主張の骨子は、住み込みでの勤務は労働基準法に違反するため、正社員とは区別して「ヘルパー」としており、職業紹介をしているにすぎず、職業紹介に関する職業安定法の規制を順守しており、賃金の負担は要介護者であり、老人ホームはヘルパーに対する支払を代行していたにすぎず、雇用関係は要介護者とヘルパーの間で成立しているというものでした。
24時間の住み込みの介護を提供するというのは、要介護者にとってはありがたいものかもしれませんが、労働基準法上は、過剰な時間外労働が生じるなど問題があると言わざるを得ません。例外的に認められるとすれば、労働基準法が適用除外とされている「家事使用人」に該当する場合ですが、裁判所は、介護サービスを行う場合には、軽度の作業ではないことを理由にこれを否定しています。
裁判所は、契約の形式はともかく、労働契約関係が認められるか否かは、実質的な使用従属関係及び賃金支払いの在り方等を踏まえて、当事者の合理的意思を探求して判断すべきとしました。より具体的には、多数の書面により老人ホームからヘルパーに対して指示が行われ、休暇取得をするためには老人ホームへの事前申し出が必要であり、老人ホームからの指示によって要介護者へのサービス提供が終了するなど、ヘルパーに仕事の紹介に対する諾否の自由がないことなどを根拠として、ヘルパーと老人ホームの間では使用従属関係があったと判断しました。さらに、賃金の支払についても、職業安定法が、紹介事業者による賃金の支払代行を禁止していることからしても、要介護者が支払うべき賃金の支払を代行していたとは認められず、老人ホームが原告に賃金を支払っていたものと判断しました。
以上のような事情から、形式的には、労働契約がない関係について、労働契約関係を認め、労働基準法を適用した結果、一日当たり20時間の労働時間があったものと認定され、多額の割増賃金の請求が認められました。
裁判例と同じような対応をされている例は少ないと思われますが、業務委託契約など、労働契約関係を締結するつもりがない場合であっても、諾否の事由がない場合などには、思わぬところで労働契約が成立するおそれがあることには注意が必要でしょう。