今年もプロ野球のシーズンが始まっております。私が応援する阪神タイガースはなかなか調子が良く、この調子で優勝して欲しいものです。

 ところで、昨シーズンは、楽天イーグルスが日本一に輝き、東北地方に勇気を与えてくれましたが、この楽天イーグルスがプロ野球に参入するきっかけとなった出来事を覚えているでしょうか。

 2004年当時まだ存在していた大阪近鉄バファローズの親会社、近畿日本鉄道は、当時連結ベースでの負債が1兆円を超え、リストラの必要に迫られていました。プロ野球の球団経営には、通常年間20億から50億円程度の赤字が発生すると言われます(それでも経営を続けるのは、親会社事業とのシナジー効果、親会社の税務上のメリット、広告宣伝効果などがあるからです)が、バファローズの経営も40億円程度の赤字があったとされ、2004年6月に大阪近鉄バファローズとオリックスブルーウェーブの球団合併の話が浮上しました。

 球団数削減を伴う球団の合併はプロ野球選手の地位に大きな影響を与えることになるので、日本プロ野球選手会は、球団側の一方的な球団合併決定であると反対し、団体交渉を試みました。

 団体交渉権とは、憲法、労働組合法上、「労働者」に認められた権利ですが、労働者というと、通常は、工場で働くライン工やオフィスで働くサラリーマンなどを想像されるのではないかと思われます。そもそもプロ野球選手は、労働組合法の適用対象となる「労働者」といえるのでしょうか。

 労働組合法は、「労働者」とは「職業の種類を問わず、賃金、給料その他これに準ずる収入によって生活する者」であると定義していて(3条)、労働者の範囲を広く認めており、プロ野球選手もこれに該当すると考えられます。裁判所も、2004年8月に選手会が日本プロフェッショナル野球組織に対して団体交渉等仮処分申立を行った際に、プロ野球選手会の労働組合性を認めています(東京高決平成16年9月8日)。

 このように、プロ野球選手は、労働組合法上の「労働者」であるといえ、労働組合たるプロ野球選手会は、団体交渉権など、労働組合法上労働者に認められた権利を行使することができるということになります。

 現に、プロ野球選手会は、2004年9月のプロ野球史上初のストライキなど、労働組合法上の手段を講じて球団側と交渉し、結果的に12球団制が維持されることとなりました。

 ところで、賃金や労働時間等について規制する労働基準法にも「労働者」という概念がでてきます。労働基準法上の「労働者」とは、「職業の種類を問わず、事業又は事務所(以下事業という)に使用される者で、賃金を支払われる者」(9条)をいいます。これに該当すると労働基準法が適用されることになります。この労働者性の判断は人的従属性を中心に実質的な観点から総合的に判断されるところ、プロ野球選手は給与の決定方法や用具を自分で調達するなどの諸点から、実務では、労働基準法上の「労働者」にあたらないという取り扱いがされています。さらに、解雇権濫用法理など判例によって形成された労働契約法理を定める労働契約法にも「労働者」概念がありますが、基本的に労働基本法上の「労働者」概念と同様であるとされますので、労働契約法上も「労働者」ではないということになります。

 ややこしいですが、まとめますと、プロ野球選手は、労働組合法上は「労働者」ですが、労働基本法及び労働契約法上は「労働者」ではないということになります。

 少なくとも労働組合法上の「労働者」であるお陰か定かではありませんが、プロ野球選手会のストライキを含む労働組合法上の手段を講じた粘り強い交渉の結果、12球団制が維持されることとなり、結果的に株式会社楽天野球団の参入が認められ、楽天イーグルスが誕生、そして、昨シーズンの感動的な優勝があったと考えるとなかなか感慨深いものがあります。