「著作物」とは「思想または感情を創作的に表現したもの…」とされています(著作権法2条1項)。これが具体的に何かと問われたとき、一般的には、絵画や音楽、最近では映画等の映像作品等が頭に浮かぶのではないかと思われます。しかし、実は様々なものが著作権法上の「著作物」にあたるものとして同法による保護を受けることができます。  

 例えば、近時、裁判所において、「庭」の著作物性が認められました。

 大阪地裁平成25年9月6日決定において、裁判所は、大阪市にある複合商業施設「新梅田シティ」内に下図のような構成で作成された庭園のうち、建物及びその敷地あるいは庭園の一部とはいえない通路・広場を除く、植栽・樹木・池等からなる庭園部分及び水路等の庭園関連施設並びにこれと密接に関連するものとして配置された施設の範囲について、次のような理由から、その範囲の庭園(以下、「本件庭園」といいます。)を一体のものとして、著作物性があると認めました。

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 「本件庭園は・・・新梅田シティ全体を一つの都市ととらえ・・・、施設全体の環境面の構想(コンセプト)を設定した上で、上記構想を・・・具体的施設の配置とそのデザインにより現実化したものであって、設計者の思想・感情が表現されたものといえるから、その著作物性を認めるのが相当である。」

 ここで、裁判所が認定した「施設全体の環境面の構想」とは、「野生の自然の積極的な再現」、「水の循環」等とされています。また、裁判所は、「水の循環」という構想に関し、本件庭園の設計者が自らの著書等で、新梅田シティにおける水の循環の構造は、(新梅田シティ東部の建物群に接する形で設置されたカナル(運河)を水が通過することで)都市的世界を循環してきた水が、その最下流に位置する花渦を通過して、田園的世界である旧花野(上図北部の自然部分)に至る、との考えの下で設計した旨説明していたことも、認定したうえで、本件庭園の著作物性を認めています。

 さらに、裁判所は、たとえ本件庭園を構成する個々の要素(庭園内に存在する植栽・樹木、池、あるいは噴水、水路等)がありふれたものであったとしても、庭園設計者は上記構想を現実化するべく個々の要素のデザインや配置を行っており、そのようにして作成された本件庭園は、「全体としては創造性に富んでいる」ものとして、本件庭園全体として「著作物」の一要件である創造性があることを認めております。

 たしかに、本件庭園の個々の要素、すなわち、庭園内に植栽や池、あるいは噴水があるということは珍しいものではないと思われます。しかし、本件庭園の設計者は、例えば上記「水の循環」という構想を現実化すべく、庭園内で

 「列柱滝(上図赤○部)→渓谷→渓流→地下水路→噴水(上図緑○部)→カナル(運河)→花渦(上図黄○部)→小川(湧出口が上図茶○図)(→列柱滝…)」

 という流れで水の循環(上図青矢印参照)が行われるように、地下の構造まで含めて本件庭園を設計しております。そして、これら個々の要素の配置や形状等までみると「都市的世界を循環してきた水が、その最下流に位置する花渦を通過して、田園的世界である旧花野に至る」という上記の設計者の思想を現実化するべく、それぞれの施設の配置についても設計者の思想を反映して設計され、その集合体として本件庭園が作成されていると考えられます。そのうえ、当該水の循環の構成要素として上記のように「渓谷」、「小川」といった自然界に存在する地形の再現を取り入れており、水の循環を行うという観点のみからすれば必ずしも必要とはいえないこれらの部分は、「野生の自然の積極的な再現」という構想を現実化するために設計され、作成されたものといえるでしょう。

 このようにして本件庭園を見ると、たしかに、本件庭園は、全体として見て、設計者の「思想又は感情を創作的に表現したもの」として、著作物にあたるというべきであると考えられます。本件の「庭」のように、一般的には「著作物」としてすぐには連想されないと思われるものでも、著作権法上の「著作物」に該当しているものは他にもあるかもしれません。

 当記事をご覧になられている皆様の周囲にも、だれかの心の内を現実世界に顕現させたものが存在しているかもしれません。そして、それは、実は「著作物」として著作権法上の保護が認められる対象なのかもしれません。