最近は、介護事故とは異なる内容を掲載してきましたが、最近の裁判例から気になる事例がありましたので、ご紹介したいと思います。

 小規模多機能型居宅介護施設で宿泊サービスを受けていた利用者が、介護職員が目を離した隙に施設の外へ出てしまい、行方不明となり、3日後に約590m離れた場所で死亡しているのが発見されたという事案です。利用者は、記憶障害、認知障害、被害妄想、幻聴、幻覚、介護抵抗の症状がみられ、要介護4と認定されていました。そのため、不審な行動等も多い状況にあり、家に帰ろうと外に出ようとしたりする行動が出たり、毎日のように施設から出ようとしていました。施設自体の構造としては、元々民家であったものを改装しており、玄関と勝手口から外に出ることができる状況でしたが、勝手口の鍵はつまみをつまんで回せば開くサムターンタイプの鍵でした。

 相続人らは、利用者の状態からすれば、施設内に1名の介護職員しかおらず、漫然と一定時間目を離したことは監視義務に違反したといえること及び利用者が外に出ないように鍵を二重にしたり、ドアを開けるとブザー等の音が鳴るようにしたりする等の措置を講ずるべき施設の設置義務に違反したとして、事業者に対して損害賠償請求を行いました。

 以上のような事実を前提として、裁判所は、監視義務違反については否定しつつ、施設の設置義務違反については、事業者の責任を認めました。監視義務違反については、利用者3人に対して介護職員が1名であるとしても、介護保険法の人員配置の基準を満たしていることや目を離した時間が5、6分程度であることなどを理由に事業者の損害賠償責任を否定しており、これまで紹介した裁判例とも同様に配置基準が重要な判断要素となっています。一方、施設の設置義務については、利用者が外に出てしまえば、自宅にも帰ることができず、生命、身体に危険が及ぶことが容易に予測でき、毎日のように外に出ようとしている状況も認識していたのであるから、施設外に出ることを防止する義務があったと判断し、簡単に鍵を開けることができない鍵を設置したり、ドアが開いた場合には音が鳴る器具を設置したりするなどの措置を講じておくべきであったと判断されています。

 人員の配置基準などから監視義務違反がないとされても、施設に不備がある場合は、設置義務違反を理由として事業者の損害賠償責任が肯定されており、人員と設備の両輪をしっかりと整備しておくことが重要と思われます。