老人福祉事業については、参入企業も増加し、今後も拡大していく市場と考えられる一方で、帝国データバンクによれば、老人福祉事業者の倒産件数が2000年以降で過去最多となっているとのデータが公表されており、その原因について、介護関連事業へ参入する企業が増加し、競争が激化していることも一因とされていました。また、倒産態様についても8割超が破産手続き、つまりは事業自体の廃止がほとんどを占めている状況となっています。

 倒産の原因は、各老人福祉事業において様々な事情があるものと推察されますが、裁判所を通じて行う法的手続としては、破産手続きのほか、再生手続などもあり、企業を再建するために用意された手続も存在しています。また、会社法上の企業再編手続きである合併のほか、株式譲渡や事業譲渡による経営権の移転によるものなど、いわゆるM&Aを利用して企業再建を行う方法もありますが、これらの方法が十分に活用されていません。

 老人福祉事業については、参入を希望し、施設の獲得を目指す企業と再建するために事業を譲渡してでも運営を継続したいと考えている老人福祉事業者が、潜在的に存在していると思われます。ところが、破産手続きの増加傾向をみると、買い手と売り手が上手くマッチングできておらず、本来であれば、再建することができる老人福祉事業者が、破産手続きに至ってしまっているケースも相当数存在しているのではないかと考えられます。

 私がこれまでに見てきたM&Aの事案においては、小規模から中規模の事業者を対象とする場合も多く、非常に様々な場面で活用されているという印象をもっています。また、買収されたとしても、従業員の雇用の維持や事業自体の存続が可能な場合が多く、入居者の生活を守ることにもつながり、M&Aによる相乗効果により経営状況が改善されることもあります。M&Aをにあたって、売りたい企業と買いたい企業が出会うことがきっかけにはなりますが、現在、老人福祉事業者は、売り手市場であり、買い手が複数見つかるという状況も少なくありません。

 破産手続きが増えている現状からすると、再建の方法を知ることなく、破産手続きを選択している事業者が存在しているように思えてなりません。老人福祉事業の競争が激化する一方で、新規参入を希望する事業者も増加している時期と思われますので、事業継続に向けた選択肢をもつことが重要な時期であると思われます。